研究課題/領域番号 |
18K03225
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
平田 典子 (河野典子) 日本大学, 理工学部, 教授 (90215195)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 一次独立性 / 無理数性 / パデ近似 / 多重対数関数 / Lerch 関数 / G 関数 / 超一様分布 / 一様分布 |
研究実績の概要 |
本研究課題の2019年度における進展について述べたい.2019年度には,研究代表者の今までの研究実績のうち,過去最高と言える成果をあげることができた(これは科研費を用いた共同研究者招聘と緊急討議のお蔭であり,この場を借りて御礼を申し述べる).研究課題にある超一様分布数列のディオファントス近似に対しては,この数列の解析に用いられてきたパデ近似という精度の高いディオファントス近似を用いて,S.David 氏(フランス,ソルボンヌ大学)・川島 誠氏(日本大学生産工学部)との共同研究において,決定的結果を与えることができた.その概要は,多重対数関数とその拡張であるLerch超越関数,また G 関数と呼ばれる重要な関数のひとつの範疇において,異なる代数的数における値の一次独立性を証明するという長年の未解決問題に対する解決と総称される.即ちLerch超越関数の値が重要な数論的性質を持つことが示された.2019年6月のモスクワでの研究集会における招待講演,2019年12月の京都大学数理解析研究所の研究集会での講演等において,本結果の速報を発表した.先行研究にはみられない新たな統一的かつ構成的手法を確立し,Y.Andre や A.I.Galochkin 及びD.V.Chudnovsky・G.V.Chudnovsky兄弟が証明できなかった事実を示すことができている.具体例の計算も豊富におこなうことが可能になった.今回に得られた新手法に基づき,G関数がどのような場合に一次独立値をとるか,加えて,リーマンゼータ関数の値の考究への応用に関する問題に引き続き取り組み,D. Zagier 及び R. MurtyらのPolylogarithmに関する予想,そして,M. Kontsevich の観察に基づく Kontsevich-Zagier の周期予想に関する解明につながる研究を,現在実施中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
重みsの Lerch 超越関数と呼ばれる,zに関する一変数複素関数 Phi_s(x, z)を考える.この関数は無限級数で定義され,その自然な収束半径は1である.xは0と1の間の有理数であり,x=0 の場合には多重対数関数に相当することが知られている.Lerch 超越関数は G 関数と呼ばれる重要な関数の例になっており,微分方程式を満たす.G関数の例として良く知られるものは例えば対数関数や Gauss の超幾何関数である.対数関数の拡張として捉えられるLerch 超越関数は,無限級数の係数である代数的数の高さと呼ばれる数論的な量に対する条件のために,指数関数のような良い解析的性質をもたないが,一方では,数論的に重要な関数であるリーマンゼータ関数と直接に深く関わることが良く知られている.また,微分方程式の解を与えることから,自然界にある多くの現象を解明するときに現れるものであり,物理学においても応用されているようである.本研究ではこの Lerch 超越関数,そしてその特別な場合である多重対数関数に対し,異なる代数的数における値の無理数性及び一次独立性をという数論的性質を証明することができた.この場合の異なる代数的数には一定の条件が課せられ,また一次独立性は,この代数的数を有理数体に添加した体の上でのものである.本結果はこの分野における長年の未解決問題であって,構成的かつ統合された組織的手法を用いるため,一般の G 関数における拡張も期待される.S. David氏(フランス,ソルボンヌ大学)・川島 誠氏(日本大学生産工学部)と共著の論文として速報を外国雑誌に投稿済であり,またその拡張についても研究遂行中である.研究手法はパデ近似と称されるディオファントス近似であり,一様分布・超一様分布数列の研究において有効な進展を与えるものである.
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今後の研究の推進方策 |
Y, Andre,D.V.Chudnovsky・G.V.Chudnovsky兄弟らの提示する,G 関数および多重対数関数についての諸問題,R. Murty らの Polylogarithm に関する予想および,Kontsevich-Zagierの周期予想に関する解明につなげる研究を,現在遂行中である.特に Lerch 関数の満たす微分方程式の言語で記述される条件との関係を調べ,関数の値の数論的性質を明らかにすることができるかを考えている. この研究が進めば,一般超幾何関数や,リーマンゼータ関数の数論的性質に対しても大きな貢献が期待される.
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