研究課題/領域番号 |
18K03231
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松下 大介 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (90333591)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シンプレクティック / 自己同型群 / 周期点 |
研究実績の概要 |
n 次元複素多様体で複素シンプレクティック形式、あるいは至る所 0とならない複素 n 形式という特殊な形式を持つものに対する Abandance 予想と呼ばれるものを研究している. この予想は, これらの特殊な形式を持つ多様体を X の上の直線束 L で, X 上の全ての曲線に制限した時の次数が 0 以上で, L の第一 Chern 類の自己交点数が 0 となるものが存在した時, L の大域切断を用いて X から X よりも小さい次元の複素多様体に全射写像が構成出来るという予想である. これまでの研究で複素シンプレクティック形式を持つ複素多様体 X で, 先に述べたような数値的条件を満たす直線束 L を持つものがある時, X の複素構造を変形する事で, 組 (X,L) の自己同型群が無限群になるように出来る事を示した. この時, 自己同型群による X の商を適切に定義する事が出来れば, 商写像が Abandance 予想の主張する低い次元の多様体への全射写像を与えるであろう, という観察を元にどのようなものが商として相応しいか, という考察を行なっている. 今年度は 1. 自己同型群はどのような群になるのか, 2. 自己同型群のエントロピーはどのような値になるのか, という問題を考察した. 1. に対しては Nef 錐という二次のコホモロジー内に定義される錐を用いる事で, 自己同型群の構造を詳しく記述することに成功した. 2 については最近提唱された多項式エントロピーという不変量を上から押さえる事に成功した. この評価はこれまで知られていたものを大幅に改良するものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の予定では, 今年度までにシンプレクティック形式を持つ多様体については Abandance 予想の解決について見通しがついているはずだったが, 現在の進行状況は解決に向けたいくつかの手法を検証している段階に留まっている. コロナ禍でオンライン授業等のこれまでにない負担が増えたのと, 研究集会が軒並み中止, あるいはオンラインに移行した関係で, 研究打ち合わせについて大きな影響があり, アイデア等を他人と議論して深めていく機会が大幅に減少した. その結果, これまでよりも自分のアイデアを検証するのに時間がかかり, 研究の進展が遅くなってしまった.
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今後の研究の推進方策 |
自己同型群に付随する不変量として, エントロピーというものがある. これらは様々な定義があるが, 代数幾何学的な範疇では, 二次コホモロジーに誘導される線型写像の固有値の大きさから定まる代数的エントロピーが代表的なものとしてあげられる. これが大きいほど各点の自己同型群による起動の振る舞いが複雑になる事がいくつかの例で確認されている. ここで自己同型群による起動が有限であるような点, 周期点全体の集合を考えると, 代数的エントロピーが正の場合, 周期点は稠密かつ一様に分布する事が知られている. この結果が代数的エントロピーが 0 の場合にも成立するか, を検証するのが今年度の目標である. 代数的エントロピーが 0 の時, 自己同型群の複雑さを測るために多項式エントロピーという不変量が最近提唱された. この不変量は上からの評価は既にいくつかの研究はあるが, 下からの評価, 特に自分が研究対象としている複素多様体の自己同型群に対して 0 より真に大きくなるか? は興味深い問題である. この問題について, 具体例を詳しく見る事で, 多項式エントロピーの下からの評価および周期点の分布について調べていきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で通常形式の研究打ち合わせおよび研究集会は全て中止になり, 旅費を全く使用しなかったため. 今年度も同様の事態が生じる可能性が高いが, その分, 機材を充実させてオンライン等で補うようにしていきたい.
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