研究実績の概要 |
いわゆる Galois 理論とは体 k の有限次拡大体 K があった時, K と k の間の部分体 H の集合と K の k を固定する自己同型群 Gal(K/k) の部分群 G の集合の間に対応がある, という理論を指す. この対応を代数多様体の定義体と有理関数体に対して以下のように拡張することを試みている.
作業仮説 : k 上定義された代数多様体 X に対し, X の自己同型群を Aut(X) とする. X の有理関数体 k(X) の k 上超越次数が 1 以上で k(X) よりも超越次数が小さい部分体と Aut(X) の almost abelian という可換な群に極めて近い性質を持つ無限位数の部分群の間に対応がある.
2021 年度は上記の仮説を X が既約シンプレクティック多様体である時, SYZ 予想と呼ばれる予想が正しい ( これは 2021 年度知られている既約シンプレクティック多様体の全ての具体例で成立することが既に示されている ) と仮定した時に考察し, Aut(X) の almost abelian な無限位数の部分群の k(X) の固定体の超越次数は必ず X の次元の半分となり, 逆に k(X) の超越次数が 1 より大きい部分体 H に対して, Aut(X) の H を固定する部分群は almost abelian となることを示した また SYZ 予想を仮定しない証明を見出す準備として twisted homogeneous coordinate ring と呼ばれる対象について調べた. これは X の自己同型に応じて定まる非可換な字数付き環で, その交換子イデアルが自己同型の固定点集合の定義イデアルとなる, ということを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題の本来の目標は SYZ 予想, さらにそれを一般化した abandance 予想を示すことである. 一方この二年間, コロナ渦の影響で教育に関する負担が増え, さらに同分野を研究している, 特に海外の研究者と研究連絡を取るのが難しい. それを補うために Zoom などを用いた研究集会を開催したりしてはいるが, 研究上のアイデアをなかなか論文の形で発表するまでに発展させることが出来ない状況が続いている.
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今後の研究の推進方策 |
SYZ 予想を仮定せずに, 既約シンプレクティック多様体 X の自己同型群 Aut(X) の almost abelian な部分群 H の固定体は超越次数が X の有理関数体 k(X) の半分であることを示したい. なお, これが示すことが出来れば, SYZ 予想は従う. これまでの研究から, これを示すためには, H の固定点集合がどのようになるか, を調べれば良いことがわかっている. 固定点集合を調べる方策として現在二つの方針がある. 一つは twisted homogeneous coordinate ring と呼ばれる H の 元に応じて決まる時数付き環を調べることである. 研究成果の欄に記述したように, これは非可換な次数付き環となるのだが, その交換子イデアルの大きさが環の各次数のベクトル空間としての次元に応じて決まるらしい, ということが今年度の観察でわかった. この観察の検証を K3 曲面や abel 多様体, あるいはそれらの上の層のモジュラいなどの具体的な例で詳しく計算し, 固定点集合の描像を掴みたい. もう一つは Weil 予想が提唱された時に Serre によって定義された自己同型に対応するゼータ関数の計算を試みたい. これは自己同型に対する新しい不変量の発見につながる可能性がある 次年度はコロナ渦に関する移動の制限も緩くなると思われるので, 9 月にインターネットを通じた国際研究集会を, 3 月に対面での国際研究集会の開催を予定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
京都大学で主として EU の研究者を招いて国際研究集会を開催する予定であったが, コロナ渦で海外からの研究者の入国が制限されたため, インターネットを通じた開催に切り替え, 必要な金額が大幅に減った. 次年度はイタリア, ミラノで国際研究集会を行う予定で, 自分の他に数名の日本人研究者の渡航費用を支出する予定である.
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