研究課題
本年度は以下の二つの結果を得た。いずれも論文にまとめ、現在、投稿中である。(1) Mordell-Tornheim 型の 1のベキ根における有限多重調和 q 級数の研究(田坂浩二氏、Henrik Bachmann 氏との共同研究):以前の研究で、1のベキ根における有限多重調和 q 級数を定義し、qを1にする極限に対応する代数的もしくは解析的操作をこの q 級数に行うことで、それぞれ有限多重ゼータ値もしくは対称多重ゼータ値が得られることを発見した。これら二種の多重ゼータ値の間には一対一の対応があると予想されており(金子・Zagier 予想)、我々の結果はこの予想に対するひとつの説明を与える。本年度の研究では、Mordell-Tornheim 型と呼ばれる多重ゼータ値についても、同様の性質をもつ有限多重調和 q 級数を構成し、それが金子・Zagier予想の対応と整合的であることを示した。(2) 多重L値の1パラメータ変形の構成とその積構造の研究(加藤正輝氏との共同研究):共同研究者の加藤氏は以前の研究で、多重ゼータ値の2パラメータ変形を定義し、それが多重ゼータ値と同様の積構造をもつこと、および、その積構造がテータ関数の Fay の関係式から導出されることを示した。我々は、この2パラメータ変形のスケール極限にあたる対象を、多重積分を使って構成した。ここで得られた対象は変形パラメータを一つ持ち、それを 0 にする極限で荒川・金子によって導入された多重L値に移行する。また、我々が構成した対象は二重余接関数のある種の一般化と見なすこともでき、その特殊値は変形パラメータの数論的性質を反映した特徴をもつことが期待される。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、1のベキ根における有限多重調和 q 級数と多重ゼータ値の関係を、多重ゼータ値の種々の拡張についても明らかにすることが目的のひとつである。今年度は、Mordell-Tornheim 型と呼ばれる多重ゼータ値について、この問題に関する結果を得た。また、多重L値に対して、上記とは別の観点から 1パラメータ変形を構成した。この対象は数論的に意味がある良い性質をもつと期待できる。
今年度の研究に引き続き、多重ゼータ値およびその種々の拡張について、1のベキ根における有限多重調和 q 級数との関係を調べる。また、今年度の研究で新たに得られた多重L値の数論的な性質についても考察し、より多角的な観点から研究を進める予定である。
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ALGEBRAIC COMBINATORICS, RESURGENCE, MOULDS AND APPLICATIONS (CARMA) Vol. 2, IRMA Lectures in Mathematics and Theoretical Physics
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Ramanujan Journal
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