研究課題/領域番号 |
18K03235
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
若槻 聡 金沢大学, 数物科学系, 教授 (10432121)
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研究分担者 |
都築 正男 上智大学, 理工学部, 教授 (80296946)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 整数論 / 保型形式 / 跡公式 / ヘッケ固有値 |
研究実績の概要 |
保型形式とはリー群の離散商上に定義されるラプラス作用素の固有関数のことである。保型形式の空間上にはラプラス作用素だけなく、離散群を用いて定義されるヘッケ作用素と呼ばれる線形作用素が存在している。このラプラス作用素とヘッケ作用素は同時対角化可能であり、これらの作用素の固有関数のことをヘッケ固有関数と呼び、ヘッケ作用素の固有値のことをヘッケ固有値と呼ぶ。このヘッケ固有値は非常に面白い性質を持っており、様々な整数論的な対象に結びつくことが知られている。たとえばヘッケ固有値の大きさの評価に関する一般ラマヌジャン予想は整数論における重要な未解決問題の一つであり、現在でもヘッケ固有値に関わる新たな発見や未知の問題の提起が行われている。本研究では、様々な保型形式の族に対するヘッケ固有値の漸近公式を導き、さらに漸近公式を導くための新たな理論の構築を目指すことを目的としている。本研究ではこの問題に対して二通りの方法で解決を目指しており、一つは跡公式を用いる手法、もう一つはフーリエ積分作用素を用いる手法である。今年度の成果として、フーリエ積分作用素を用いる手法で大きな進展を得た。フーリエ積分作用素とヘッケ作用素を組み合わせることで、ココンパクトな離散群に対する保型形式のヘッケ固有値の漸近公式を完成された形で証明することに成功した。証明にHarish-Chandraの軌道積分の極限公式を応用することができたので、技術的な側面でも大きな進展を得た。跡公式を用いた漸近公式の研究においても、跡公式と新谷ゼータ関数を関連付けることによって、正則ジーゲル尖点形式のヘッケ固有値の漸近公式の証明に向けて着実に研究の進歩を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の成果としてココンパクトな離散群に対する保型形式のヘッケ固有値の漸近公式を完成させた。証明にはフーリエ積分作用素だけでなくHarish-Chandraの軌道積分の極限公式が組み込まれるなど、技術的にも非常に完成度が高いため、今後もこの研究の進展が期待できる。これらの理由により、進歩状況の区分を(2)とした。
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今後の研究の推進方策 |
良い成果を出すことができたフーリエ積分作用素を用いた研究を、今後の研究では重点的に推進していく。次の目標は我々の手法を非コンパクトな算術商に適用することである。また跡公式を用いた研究手法でも、正則ジーゲル尖点形式のヘッケ固有値の漸近公式の完成に向けて着実に研究を推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
社会情勢により大きく諸事情が変化したため、予定していた海外出張とパソコンの購入を取りやめた。そのため、それらの費用が次年度使用として生じてしまった。この次年度使用額に関しては、海外の共同研究者との遠隔での研究打合せのための設備購入に使用する計画である。
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