保型形式とはリー群の離散部分群による商空間上に定義されるラプラス作用素の固有関数のことである。ラプラス作用素だけでなく、離散群によって自然に定義されるヘッケ作用素と呼ばれる線形作用素が保型形式には作用している。ラプラス作用素とヘッケ作用素は同時対角化可能であり、これらの作用素の固有関数をヘッケ固有関数と呼び、ヘッケ作用素の固有値のことをヘッケ固有値と呼ぶ。このヘッケ固有値は非常に興味深い性質をもっており、様々な整数論的な対象に結び付くことが良く知られている。例えばヘッケ固有値の大きさに関する一般ラマヌジャン予想は整数論における大きな未解決問題のうちの一つである。近年においても新たな発見があったり、新たな問題の提起が行われるなど、ヘッケ固有値について活発に研究が行われている。本研究では、様々な保型形式の族に対するヘッケ固有値の漸近公式を導き、さらには漸近公式を導くための新たな理論の構築を目指すことを目的としている。主要な目的の一つであったココンパクトな離散群に対するフーリエ積分作用素を用いた漸近公式の理論の構築に関しては既に成功しており、本年度にはその一般化としてココンパクトでない離散群についての研究が進められた。さらに本年度においては、別の主要な目的であった一般次数の正則ジーゲルカスプ形式のヘッケ固有値の漸近公式を得ることに成功した。その証明においては跡公式と新谷ゼータ関数を用いており、これまでにない新たな方法によって本研究の目標を達成することができた。
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