研究課題/領域番号 |
18K03242
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
山崎 義徳 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 准教授 (00533035)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Ramanujan グラフ / 四元数環 / 多重ゼータ関数 |
研究実績の概要 |
本年度はまず、Lubotzky-Phillips-Sarnak(以後 LPS と略記する)によって得られた Ramanujan グラフの構成方法を Hamilton の四元数環を含むより一般の四元数環の場合に拡張した。今回の方法は、四元数環とその整環ごとにグラフを構成するものであり、特別な場合に上記の LPS Ramanujan グラフ、および Chiu によって構成された cubic Ramanujan グラフを含む。特に、整環として Ibukiyama によって与えられたパラメータ付き極大整環を選ぶことで、パラメタ付きグラフの無限族を得ることができるが、極大整環の類数が 1 のときは、構成方法の類似性からこのグラフが Ramanujan グラフであることを期待している(実際に、数値実験でいくつかの場合に Ramanujan グラフであることを確認済みである)。その証明については完全に細部を埋めることがまだできていないので、残った部分は次年度以降の課題とする。以上は東京大学の Hyungrok Jo 氏と日本大学の杉山真吾氏との共同研究で得られた結果である。 一方で、Euler-Zagier 型多重ゼータ値を組合せ論的視点から拡張した Schur 多重ゼータ値について、ribbon 型という特別な場合にそれが大野関係式を満たすことを明らかにした。鍵となるのは山本積分表示と呼ばれるある種の反復積分表示であることがわかったので、ribbon 型以外のどのような型の Schur 多重ゼータ値が山本積分表示を持つか調べたが、一般には解明には至らなかった。また、双対性や和公式についても数値実験などでいくつか予想を立てることができたので、その証明も含めて次年度以降の課題としたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回の結果により、四元数環を用いたグラフの代数的な構成法がある意味で確立したと言ってもよい。LPS Ramanujan グラフ(および Chiu による cubic Ramanujan グラフ)は今回の構成の非常に特別な場合としてとらえることができるが、一般化することでその特殊性がより明確となった。これにより、どのような場合に今回構成されたグラフが Ramanujan グラフになるのか、という問題に対して、議論すべき点が整理され、今後の研究の見通しも良くなったと考えられる。 一方で Schur 多重ゼータ値であるが、今回(非常に特別な場合ではあるが)大野関係式という関係式族を満たすことが証明されたことにより、Schur 多重ゼータ値も Euler-Zagier 型多重ゼータ値と同様の(あるいはそれを含む)関係式を満たすのではないか、という問題設定がより現実的なものとなった。また、多重ゼータ値の積分表示の重要性を改めて認識させられる結果でもあると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは極大整環の類数が 1 の場合に、今回構成したグラフが Ramanujan グラフであることの証明を完成させる。その際グラフのうまい生成集合を取る必要があるが、それについては最近適切な候補が見つかったので、それを用いる。無事証明ができたら、今度は整環を取り換えた場合にグラフが Ramanujan になるか、あるいはならないかについて議論する。例えば、整環を極大整環よりも条件を緩めた(類数 が 1 の)Eichler 整環の場合にどうなるか解明する。類数を 2 以上にすると、問題は途端に難しくなるので、この場合はまずは数値実験を行い、現象を把握することから始める。 一方で Schur 多重ゼータ値については、様々な型の場合に再度山本積分表示を模索する。あるいは、山本積分表示の一般化と呼べるものを導入し、その表示を持つ場合に限定して Euler-Zagier 型多重ゼータ値に対する関係式と類似のもの(あるいはそれを含むもの)を満たすかどうか数値実験を交えつつ研究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は旅費の補助を受ける機会があったため、92,605円の繰越が生じた。この分は、次年度以降の(海外を含めた)出張の際の旅費や専門書の購入費用に充てる。
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