研究実績の概要 |
平成 30 年度の研究により, 関数に付随するケーレーグラフの基本的性質が初等的かつ統一的な方法で示された.特に, APN 関数のみならず一般の関数に関する概念が記述できた点が大きい進展といえる. カギとなったのは, 差分的一様性や Walsh 係数従って Walsh スペクトラムという概念はケーレーグラフの言葉(距離2の点に共通する近傍の大きさやケーレーグラフの隣接行列の固有値)で記述できるという観察である. 差分的一様性, Walsh スペクトラムなどの性質が同値性により保存されるという事実は, 従来個別に検証されていたが, 関数の同値性がケーレーグラフの同型性を導くという自明な事実から, これらの事実に統一的な説明が与えられたのである.
更に, Walk の数え上げが Walsh スペクトラムのべき乗から計算できるというモーメント公式を用いて, 関数に付随するケーレーグラフはどのような関数に対して距離正則となるかという問題に関して深い追及を行った. 特に, APN 関数の場合には, 完全な結果が得られ, APN 関数に付随するケーレーグラフが距離正則となることと, APN 関数が AB 関数であることが同値であることが示された.
以上の概略は2018年12月に京都大学数理科学研究所主催の研究集会において講演された. その際に提出したケーレーグラフの直径に関する問題のうち, 幾つかについてはその後部分的進展があったが, 一般には未解決である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有限体上の関数が定めるケーレーグラフに関して当初設定した問題のうち, 基本的な性質が示されたこと, また APN 関数についてはその距離正則性と関数が AB 関数というクラスに入ることの同値性が示されたこと,などが解決された.ただし, 差分複体に関する一般論構築に進むための完全な基盤が整えられた状況とまでは言えない.以上を総合して (2) を選択した.
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今後の研究の推進方策 |
まず関数が APN 関数とは限らない場合に, 付随するケーレーグラフが距離正則となるのはどのような場合なのか調べる. 特に直径の上限がどうなるのか検討する. 進展に応じて, 距離正則グラフなどに詳しい東北大学情報科学研究科の宗政昭弘氏に助言を受けることも考えている.
これと並行して, 関数に多少の制限を付けても構わないが, まず単体複体の理論がうまく構築できるのがどのような場合であるのか検討する. この概念は, 一般の関数の代数的次数と関連する部分があるので, 先行研究と対比することも重要と考えている. この概念については, 近年特に目立った研究はないので, 過去の文献を丹念に調べることから始めたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度予算から購入予定であったコンピュータについては, 本年4月に勤務校から支給された新機種で代替可能となったため.また, 引き続き家庭内の事情により週日の出張が制限されたことにより, 旅費の消化額が当初予測よりも少なかったため.
平成30年度末に有限単純群に関する本の執筆依頼を受け,承諾した. それに伴い, 平成31年度に関しては出張できる機会が減少すると予想されるため, 平成31年度の予算請求額を150,000円に減額し,平成31年度所要見込み額を約 600,000 円とした.
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