研究課題/領域番号 |
18K03267
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
楯 辰哉 東北大学, 理学研究科, 教授 (00317299)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子ウォーク / 半古典極限 / 正規分布 |
研究実績の概要 |
今年度も引き続き、1次元量子ウォークの半古典極限に関する研究を継続した。量子ウォークは量子検索アルゴリズムなどの高速アルゴリズムを提供すると期待されているが、一方でその数学的な構造は未解明の部分が多い。通常はランダムウォークの量子論的な側面であると考えられているものの、例えばランダムウォークの中心極限定理に現れる正規分布は自然には現れない。古典系との対応を明確にするための研究であり、重要課題である。本研究で考察している設定は、1次元2状態斉次量子ウォークを定義する2次特殊ユニタリ行列を、2次特殊ユニタリ群の既約表現を用いて高次元化してコイン行列を作り、既約表現の次元に則して1ステップで遠くに到達できるようにシフト作用素を定義するという設定である。その状況で、既約表現の最高ウェイトを無限大にするという極限を考える。この極限が半古典極限に対応するのであり、規約表現の最高ウェイトの逆数が半古典パラメータに相当する。上記の量子ウォークの半古典解析の設定では、極限分布が正規分布となるようなスケールが存在すると期待して研究している。昨年度までの研究では初期値も行列のサイズに依存してしまうため選び方が自明ではないこと、そしてパラメータがステップ数(離散時間)最高ウェイト(既約表現の次元)そしてスケールパラメータと、三つのパラメータを同時に扱わなければならず、この二つが大きな困難さと認識していた。今年度の計算の精査により、原点付近で上に凸になるような極限分布を発生させるための、何かもう一つ別の機構が必要になるのではないかという知見を得るに至った。しかし決定的なアイデアはまだ見つかっていない。研究課題申請時にはすでに設定を整えてかなりの計算をしていたが、その設定自身の修正が必要であろうと最近は思っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
一般の結晶格子での周期的ユニタリ推移作用素の定式化と特異連続なスペクトルしか現れないこと、そして局在化との関連についての結果は、本研究課題の前に概ね得られており、それを本研究課題の補助により実際に出版にたどり着いたという経緯があり、一定の成果は得られている。しかしながら、本研究課題における主要なテーマの一つである1次元量子ウォークの半古典解析については、研究期間の比較的初期の段階で一定の成果を得られるであろうと考えていたものの、例えば先に記載した3つの困難さが判明するなど、計算をするにつれて予想を超える困難が発生し、現時点ではかなり難しい問題であろうと考えている。また、今年度は感染症対策のため所属機関において業務のオンライン化への対応に時間を費やす必要もあり、研究が遅れてしまっている。しかし本研究課題において行った計算結果は、その手法も込めて重要となると考えており、諦めずに研究を続けたいと思っている。また、当初はリース・ウォークなどの特異連続なスペクトルをもつ量子ウォークの詳細な研究も計画していた。これについては現時点では情報収集の域を出ていない。これについては後述するが、今後遅れを取り戻すべく研究したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、やはり主要なテーマの一つである1次元量子ウォークに対する半古典解析を中心に研究する。計算過程で、ある積分核が現れるのだが、その積分核の性質がよくなるような初期値を選ぶこと、そして核ステップで適切に修正して極限分布が凸性を持つような工夫を入れることを主要な目標として研究する。その際、先に簡潔に説明した、当初から考えていた設定を一部修正する必要があるものと考えている。また特異連続スペクトルを持つ量子ウォークについて、Cedzichらにより2次元正方格子場での、磁場つきの量子ウォークモデルが提案され、それが特異連続スペクトルを持つこと(測度ゼロのカントール集合となること)が示されている。特にこのモデルは、いわゆるHofstadter の蝶の類似で非常に興味深い。これについて、通常のHarper作用素(通常のHofstadterの蝶)との関連、具体的にはどのような操作のもとでHarper作用素が現れるかという問題は興味深い。またさらに極限分布の状況を調べることは非常に重要であろうと思われる。しかし極限分布は代数構造が明確にされなければ難しいため、まずはこの磁場つきウォークの代数的な背景を調べたい。具体的には磁場平行移動(Cedzichらは「斉次平行移動」と呼んでいるようである)全体からなる群がどのような構造を調べることを問題としたい。また、一般の結晶格子における定式化について彼らは「斉次平行移動に関する代数的な観点は高次元格子上の磁場つきウォークに拡張される」と述べているが、実際には高次元格子上の定義は述べられていないばかりか、調べられてもいない。これらについては、本研究課題内で考察できる問題と考えているし、今後可能であれば実際に研究したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
主な理由は、感染症対策のため出張が全くできなかったため出張旅費を使用しなかったためである。次年度以後も出張旅費はあまり使用できないであろうと思われる。そのため、今後は研究支援者の雇用を中心に使用する。
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