研究実績の概要 |
研究期間当初,(1)周期的ユニタリ推移作用素の幾何学的な先見的導出,(2)1次元定数コイン量子ウォークの半古典解析,(3)Rieszウォークの極限分布の解析を目標として掲げた。このうち,(1)について今年度,新たな計算方法を見出すことができた。1次元定数コイン量子ウォークをSU(2)既約表現を用いて1次元多状態の量子ウォークを構成し,その確率分布の既約表現のウェイトを無限大とする極限のもとでの挙動を調べることが(2)の目的であった。今までは平均の漸近的計算にとどまっていたが,今年度新たに開発した計算方法によれば,具体的に平均や分散がもとまる。弱極限定理への大きな一歩となったと考えている。まだ論文にしていないが,今後,さらに注力して研究したい。また,(1),(3)についてはかなり難しいと考えているが,関連する研究として研究期間中に1次元に限り,一般のコイン行列についての一般固有関数展開定理を得て,論文として出版することができた。固有関数展開定理とは,Sturm-Liouville 作用素に対して知られている,フーリエ変換に関するParsevalの等式の一般化に相当する定理を含む,Weyl, Stone, Titchmarch,小平らにより確立された理論を指し,これの類似物を1次元量子ウォークに対して得ることができたということである。特に,量子ウォークに対する一般化フーリエ変換に相当する概念を導入して,そのParsevalの等式を証明できたが,そこに現れる単位円周上の行列値測度により,弱極限測度が記述されるものと期待している。なお,Rieszウォークについては現時点でも我々の得た固有関数展開定理を適用できるクラスに入るかどうか判定できていないが,そのクラスに特異スペクトルを持つものも含まれているため,今後更なる解析が必要と考えている。
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