研究課題/領域番号 |
18K03269
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
二木 昌宏 千葉大学, 大学院理学研究院, 助教 (40583927)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ファノ多様体 / フレアーホモロジー / 深谷圏 / 行列因子化 / ミラー対称性 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、1次元射影空間および複素平面に対して同変ホモロジー的ミラー対称性を定式化し証明した(学習院大学・三田史彦氏と共同)。 令和2年度にトーリックファノ多様体のSYZ描像に基づくホモロジー的ミラー対称性の研究(千葉大学・梶浦宏成氏と共同)が一段落したので、令和3年度はトーリックファノ多様体のホモロジー的ミラー対称性の同変化の研究に注力した。これはトーリックファノ多様体の同変深谷圏と、同変ランダウ・ギンツブルグミラーの行列因子化圏が、しかるべき定式化のもと同値になるという予想である。 同変ランダウ・ギンツブルグミラーはギヴェンタルの論文などで提唱されており、その行列因子化圏は同変の場合にも自然に定義される。 一方で同変深谷圏および同変フレアーA無限大代数は、この文脈で必要な形ではこれまでに定義されていなかった。我々が考えているのはトーリック(ファノ)多様体のモーメントファイバーのなす深谷圏であるので、幾何的設定を分離して考えると、トーラス作用のあるシンプレクティック多様体の中で、その作用で保たれるラグランジュ部分多様体に対しフレアーA無限大代数を定義できればよい。このために必要なのは、リー群作用のある多様体の同変コホモロジーを代数的に定式化する、g微分代数の概念である。すなわちこの状況において、ホモトピー商で定義される同変コホモロジーは、ドラーム複体へのリー環作用により定まるg微分代数構造に関する、カルタン模型のコホモロジーと同型になる(アティヤ・ボット)。 そこで我々は、モーメントファイバーのトーラス作用に関するカルタン模型を擬正則円盤の数え上げにより変形する事で、複素1次元の場合に同変フレアーA無限大代数を定義した。これは容易に計算する事ができ、その計算を通じて上に述べた形での同変ホモロジー的ミラー対称性が証明される。この証明の戦略は非同変の場合の自然な拡張である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
トーリックファノ多様体に対する同変フレアーA無限大代数の定式化の筋道をつけ、1次元の場合に同変ホモロジー的ミラー対称性まで証明しプレプリントに纏める事ができた(投稿中)。またその高次元化へ向けて考察を進めるなど、研究面では概ね順調となってきた。 一方で当初予定していた海外出張が令和3年度も取りやめになるなど、研究成果の周知や情報収集の点では依然障害が多かった。このため助成期間の延長を申請し、令和4年度に出張等を実施する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度にプレプリントに纏めた同変深谷圏の定式化および同変ホモロジー的ミラー対称性の証明を、高次元に一般化する事を最優先する。 公開済のプレプリントで1次元の場合に限ったのは、その場合のみA無限大構造に寄与する擬正則円盤のモジュライが(角付き)多様体となるからである。2次元以上ではモジュライが多様体とはならず、仮想基本類の枠組みが必要となる。 深谷・小野、および深谷・Oh・太田・小野の一連の仕事では、まずグロモフ・ウィッテン不変量、ついで(非同変の)ラグランジュ部分多様体のフレアーA無限大代数の研究において、倉西構造と呼ばれる仮想基本類の枠組みが定式化・発展させられ用いられた。我々の研究に必要なのは、リー群作用同変な倉西構造の構成である。実はモーメントファイバーの場合、そのままではリー群作用同変に仮想基本類を構成できない事が知られている。深谷・Oh・太田・小野はこの問題を解決するため、パラメータ付で倉西構造を摂動するCF摂動(連続族摂動)を導入した。 したがって今後の研究の方針としては、一般次元のモーメントファイバーの場合に、ドラーム複体のカルタン模型上のCF摂動を用いたA無限大構造を書き下す事であり、それができればホモロジー的ミラー対称性の証明は実行可能な計算に帰着される事が期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ規制などの事情で国際研究集会への出張が中止となり、国内出張も当初予定通りに行えなかったために残額が生じた。 令和4年度には国内外への出張を行うほか、ハイブリッド方式で研究集会を開催するために必要なICT機器を整備するために予算を用いる。
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