研究課題/領域番号 |
18K03271
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
塚田 和美 お茶の水女子大学, 名誉教授 (30163760)
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研究分担者 |
江尻 典雄 名城大学, 理工学部, 教授 (80145656)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 四元数ケーラー多様体 / 全複素部分多様体 / 実グラスマン多様体 / ツイスター空間 / 複素球面 / Lie 球面幾何学の複素化 |
研究実績の概要 |
四元数(擬)ケーラー対称空間の複素部分多様体の構成、特徴付けの課題に関わり、今年度は、実グラスマン多様体の全複素部分多様体に焦点を絞り研究を進め、Lie 球面幾何学の複素化に相当する幾何学との興味深い関係を見出し、理論の基礎となる結果を得た。その内容は以下のとおり。n次元実ベクトル空間 R^n の向き付けられた4次元部分空間のなすグラスマン多様体 Gr_4(R^n)は四元数ケーラー対称空間になる。n次元複素ベクトル空間 C^n の複素2次元部分空間で標準的な複素内積を制限したとき零となるもの全体 H_2(C^n)は正則接触構造をもつ複素多様体となる。H_2(C^n)からGr_4(R^n)へ自然な射影が定義され、これがGr_4(R^n)の四元数ケーラー構造に関するツイスターファイブレーションになることを示した。これは本研究計画で目指したツイスター空間の幾何学的実現に対応する成果である。この結果から、H_2(C^n)の正則接触構造に関するルジャンドル部分多様体をGr_4(R^n)へ射影することにより、全複素部分多様体を構成できることが分かる。一方、H_2(C^n)はn-3次元複素球面CS^{n-3}の単位接ベクトル束と見ることもできる。この見方により、CS^{n-3}の複素超曲面からH_2(C^n)のルジャンドル部分多様体が得られることが分かる。ルジャンドル部分多様体に関する接触幾何学の視点から複素超曲面について論ずることがLie 球面幾何学の複素化に相当する幾何学である。以上を統合することにより、H_2(C^n) を仲立ちに複素球面CS^{n-3}の複素超曲面と実グラスマン多様体Gr_4(R^n)の全複素部分多様体との間に対応関係があることが見い出された。今年度は、CS^{n-3}の複素超曲面の興味深い例の構成やその特徴付けなどの結果も得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画の最終年度として、研究目的に沿った成果を得ること及びこの研究課題で得られた成果を国内外で発表すること、本研究課題に関係する研究を行っている国内外の研究者と研究交流を行うことにより、本研究を深め、発展させることを目指した。 目標とした研究課題について一定の成果が得られた一方、新型コロナ感染拡大のため、国内外での研究発表、研究交流を行うことがほとんどできなかった。また、研究分担者との研究打合せも対面で行うことが出来なかった。研究目的に沿った成果、成果の発信という点で不十分な点があり、研究期間を延長する必要が生じた。以上のような点を鑑み、「やや遅れている。」と判断した。 成果については、研究実績の項で述べた「Lie 球面幾何学の複素化に相当する幾何学と実グラスマン多様体の全複素部分多様体の関係」に関する結果を得たこと。成果の発信に関しては、研究代表者がこれまで研究を蓄積してきたテーマ「四元数多様体の複素部分多様体」について、研究者向けに総合的に解説する講演の機会を得た(秋葉原微分幾何セミナー)。新型コロナ感染拡大防止のため、オンラインによるセミナーであった。微分幾何を専門とする研究者に研究概要を知っていただく上で、また本研究代表者が研究の到達点と課題を整理する上で、貴重な機会となった。
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今後の研究の推進方策 |
1.四元数(擬)ケーラー対称空間の複素部分多様体の構成、特徴付けの課題に関しては、実グラスマン多様体に焦点を絞った研究を進展させる。前年度に得られた成果であるLie 球面幾何学の複素化に相当する幾何学との関係に着目する。複素球面の複素超曲面と実グラスマン多様体の全複素部分多様体の対応の詳細(対応する幾何学的性質や不変量など)について明らかにする。実球面の超曲面を参考に複素球面の超曲面の例を多く構成し、対応する全複素部分多様体がどんなものになるか、どんな興味深い性質をもつかなどを明らかにする。また、等質全複素部分多様体の構成方法を探る研究も継続する。 2.四元数射影空間の複素部分多様体に関する変換や変形の理論構築に関しては、異なる設定での類似の課題を研究した関連する文献の検討を継続し、研究を進める。 3.本研究課題やより広く四元数複素微分幾何学に関する国内外の研究者との研究交流を進め、また国内外での研究集会等での研究成果発表を行う。 対面での交流や発表とともに、オンラインによる方法も活用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染拡大のため、研究分担者との研究打合せ、国内外での研究集会等の参加のための出張が全くできなかったため、次年度使用額が生じた。 本研究課題やより広く四元数複素微分幾何学に関する国内外の研究者との研究交流や国際研究集会等での研究成果発表を行いたいと考えているが、引き続く新型コロナ感染拡大の影響で、国内外の出張ができない可能性もある。オンラインの活用など工夫をこらし、研究打合せ、研究交流ができるよう努めたい。上記研究交流のほか、関係する専門分野の研究者から専門的知識の提供を受け、研究を進展させたい。その謝金等にも経費を充てたい。引き続き、四元数幾何学, 複素微分幾何学や擬リーマン幾何学などの最新の成果を盛り込んだ幾何学関連の図書, 関連する話題について記載された代数学, 解析学, 物理学などの関連する図書を購入する費用にもあてたい。
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