本研究計画で得られた研究成果は以下の通りである。 (1) 滑らかな写像のみを用いてホモトピー集合を定義し,それを基に微分空間の圏の Quillen モデル構造の具体的な構成を与え,さらにそれが位相空間の圏のモデル構造と Quillen 同値であることを証明した。 (2) Schwartz 超関数が抱える「積が一般的には構成できない」という難点を解消する手段として導入された Colombeau 代数を援用して一般の微分空間上の「一般関数」を構成し,それを「漸近関数」と名付けた。この漸近関数は,任意の微分空間の間の「漸近写像」に拡張することが容易であり,さらに,微分空間と漸近写像からなる圏は,完備性・余完備性を始めとして微分空間の圏がもつ優れた性質を継承していることから,解析学だけに留まらず,微分空間のホモトピー論の研究においても極めて有効な手段を提供することが期待される。その一つの例証として,滑らかの写像のみでは一般的には成立しない「ホモトピー拡張性質」および「被覆ホモトピー性質」が,我々が構成した漸近写像を用いれば常に成り立つことを示した。 (3) Colombeau 代数の理論におけるスカラーが零因子をもつ環であったのに対し,漸近写像の理論のスカラーは実数体を含む(非アルキメデス的)実閉体となる。この利点を活かして,漸近関数を拡張する形で任意の微分空間上の「漸近微分形式」を構成した。漸近微分形式の全体は de Rham カレント,すなわち,多様体上のコンパクトな台をもつ微分形式からなるベクトル空間上の連続汎関数を含み,なおかつ,滑らかな微分形式の全体と同様に,実閉体上の次数付き微分代数をなしている。したがって,漸近微分形式は多様体上の微分形式とカレントがもつ様々な特質を併せ持ち,とくに幾何学的測度論の発展に大きく寄与することが期待できる。
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