研究課題/領域番号 |
18K03286
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
吉岡 朗 東京理科大学, 理学部第二部数学科, 教授 (40200935)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 変形量子化 / 超幾何関数の変形 / 非可換幾何学 / 非可換シュワルツシルド宇宙 / 拡張不確定性関係 / 中心配置 |
研究実績の概要 |
一変数の変形量子化を用いて超幾何関数の変形を調べた。特にクンマー関数の場合に具体的な変形を考察し、級数を与える変数及び変形の方向をあたえるパラメータの両方に関して整函数となることが分かった。得られた整函数は変形量子化代数において、クンマー関数と同型な関数等式をみたす。この方法は、さらに一般的な超幾何関数に対して適用可能である。得られた成果を研究会にて公表した。 シュレディンガー作用素の固有値及び固有関数の近似を、マスロフの量子化条件を用いて与える幾何学的な方法がある。これをいくつかの具体的な系に対し適用し、固有値及びその重複度の正確な値を計算した。特に複素射影空間のボホナーラプラシアンの固有値の重複度がこの方法で得られることが検証できた。その深い理由は変形量子化を用いて解析可能であることが予測できる。得られた結果をまとめて論文として発表した。 変形量子化の応用として、変形量子化の変形の方向をきめるパラメータと一般化された不確定性原理に現れるパラメータに関係を与える研究を行った。これは相対論・宇宙論への新しい応用の流れに沿う研究である。得られた関係式からプランクスケールにおいて空間が離散的である描像をみちびきだすことが出来る。得られた結果を論文として発表した。 さらに、変形量子化の応用への布石として、天体力学における中心配置の問題をしらべ、いくつかの結果を得ることが出来た。多体問題の解の挙動は一般には複雑で、解析が難しいが多体系を構成する質点たちが直線に乗っている特殊解の存在とその解析は可能であることが知られている。このような与えられた多体系の直線解に、あらたに複数の質点を加えて再び多体系の直線解を構成する問題を定式化し、解析方法を提案した。いくつかの具体的な場合についての解析を行い、存在と一意性に関する肯定的な結果を得た。得られた結果を論文にまとめ発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
収束べき級数における変形量子化の収束性については、収束に関する一つの判定条件を得た。さらに従来のフレッシェ空間を用いた議論においても、細かく空間を分解して調べることが出来るようになってきた。これを用いて種々の関数の変形を扱うことが出来ると期待され、この方面に関する研究は順調に進んでいると評価できる。 非可換な関数等式に関しては、まず、一変数の変形量子化代数において可換な変形を行った。この枠組みで様々な具体的計算を行うことが出来た。さらに収束半径の計算など基本的な技術が分かってきた。これらを非可換な場合に応用する手掛かりを得たと判定できおおむね順調に研究は進んでいる。 応用研究に関しては国内外の研究協力者と共同で研究が進んでいる。具体的な例を扱うことで収束変形量子化代数の研究の方向性が見えてくることが期待されるが、これに関しても、着実に進歩している。得られた結果を研究会で公表することおよび論文発表するなど計画通りに進んでいると評価できる。 基本的な性質に関する研究、数理物理学への応用研究の2点はおおむね順調に進んでいると評価できる一方、解析学・幾何学など純粋数学への応用がやや手薄になっている。これに関しては、超幾何関数の変形の手掛かりが得られたので、この方面から具体的な問題を通じて研究をすすめることで改善が可能である。また、海外の研究会に参加予定であったが、1年目は収束性に関する条件が分かったため国内での研究を中心に集中的に行ったこと、およびそのために業務との調整が難航して国内の研究集会での発表にとどまった。しかし、国内外の研究者たちとの研究連絡は密に取れているので、2年目はこれらの調整を順調に行うようにして、海外の研究者との直接の研究情報の交換および共同研究を推進するようにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
超幾何関数の変形の研究で得られたクンマー関数の変形の持つ関数等式を検討する。さらに収束半径の判定法をクンマー関数より広くしかも計算可能なクラスに適用し研究する。もとの関数がみたす関数等式がどのように変形されていくのかを調べることは具体的で実行可能な興味ある問題といえる。得られた結果を国内外の研究会などで適宜発表しほかの研究者・専門家たちとの情報交換を行う。 収束級数の空間の細分化に関しては、現在行っている海外との共同研究を継続し、これを通じて変形量子化の関数空間に関する研究の方向性を調べていくと同時に、この共同研究で結果を出すように努力し論文等の発表につなげていく。特に幾何学的量子化との関係を代数の表現あるいは関数空間への変形量子化代数の作用を考察することが実行可能で、これに関する結果を出すようにする。 相対論・宇宙論などへの変形量子化の応用研究を海外の共同研究者と行い1年目に論文発表したが、これをさらに進めていく。この研究には物理学の専門家が加わり、数学では普通は行わない、実験・観測の結果との照合などをしている点が特徴である。これをもとに変形量子化の幾何学などへの応用の手掛かりをさらに探り、また、変形量子化の方向性を考える上での指標となるようにまとめていく。特に応用研究を通じて計算機などの数式処理が結果の予測などにおいて非常に役に立つことが分かってきた。数式処理などの方法を研究に取り入れていく。変形量子化の研究において数式処理はまだそれほど使われていないので、この方向を進めていくことは意義があると思われる。 以上のようにいくつかの事柄の検証・研究を海外の共同研究者たちと連携し密に連絡を取り合って行っていく。研究会での発表、論文発表などを行い様々な研究者たちからの意見などを取り入れていく方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
差額が生じた理由は、特に研究計画の大幅な変更によるものではなく、当初はブルガリアにおける国際研究集会に参加予定であったが、研究内容の進展に応じて、この期間に国内にて集中的に研究を進めることに予定を変更し不参加としたため、このための旅費が不要となったこと、および、当初購入予定であった研究用PCの予定を変更して論文作成用のアプリケーションの購入を優先したため差額が生じた。 本年度は、当初の予定に加えて、昨年度の研究の進展に応じ国内外の研究打ち合わせの必要性が発生したためそれに使用すること、および、研究環境の若干の変化に応じ資料整理用の電子機器を購入することに使用する計画である。
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