研究課題/領域番号 |
18K03287
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
市原 一裕 日本大学, 文理学部, 教授 (00388357)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | トポロジー / 3次元多様体 / デーン手術 / 結び目補空間 |
研究実績の概要 |
本研究の主な研究課題は,これまで様々な研究が進められている3次元球面を拡張する3次元多様体のクラスであるレンズ空間の中の結び目に焦点をあて,結び目理論研究の基礎となる問題「結び目補空間問題:同相な補空間をもつ結び目はいつ同値となるか」にアプローチすることである。当該年度に得られた主な研究成果は,レンズ空間内の双曲結び目に対して,それが1次元ホモロジー群の生成元を代表するとき,そのような結び目は補空間によって決定されるということである。これは,デーン手術理論を応用し,古典的なホモロジー群を精密に調べることによって証明される。この手法の応用として,レンズ空間をより拡張したクラスであるホモロジーレンズ空間内の双曲結び目に対しても,ホモロジー的な仮定の元で,補空間問題が肯定的に解決されることを証明した。 これらの結果は,斎藤敏夫氏(上越教育大)との共著論文としてまとめ,海外研究雑誌に投稿中である。またさらに,この研究成果を契機として,国内外の他の研究者による当該問題の解決に向けての研究がなされたことも,広い意味での本研究課題の成果であると言えよう。 その他,関連する研究成果として,次の結果を得た。(1)整数彩色可能なトーラス絡み目の標準図式について,それが許容する整数彩色の最小彩色数を決定し,そのような整数彩色の分類を与えた。(2)ランダムな空間グラフの4つのモデルについて,そのいずれのモデルにおいても,その頂点数を増加させていくとき,そのランダムグラフが結び目内在的である確率が1に収束することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に述べたように,当該年度に得られた主な結果である,レンズ空間およびホモロジーレンズ空間内の結び目が古典的なホモロジー的条件を満たせば,補空間によって決定される(結び目補空間問題が肯定的に解決される)ということは,古典的ホモロジー理論のみを用いて得られた成果であり,これまで見過ごされてきた視点からの研究であると言える。近年,大きく研究が進められているヒーガードフレアホモロジーによる研究を補完する可能性があるものとして重要な位置づけを持つとも考えられる。 さらに,この成果を契機とした研究がすでに関連する研究者により進められつつあること,さらに昨年度までに得られた結び目のジョーンズ多項式を用いた研究が国内外の多くの研究者によって用いられ,新たな研究の流れを作り,多くの進展が促されていることも大きな成果と言える。 また,関連する研究成果(1)(2)は結び目理論および空間グラフの基礎的な研究であるが,結び目補空間問題との関連も考えることができ,様々な視点を提供するという意味で価値があると言える。 一方で,今年度は新型コロナウィルス感染拡大のため,国内外の多くの研究集会がオンライン開催となった。そのため,様々な研究者との交流という点では難しいことも多かった。さらに,これまで多く行ってきた関連する研究者との研究打ち合わせについても,感染拡大防止のための国内の移動制限によって大きな制限を受けた。これらの社会状況の改善に合わせて,次年度の研究をより進めていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には研究計画に沿って研究を推進していく予定である。ただし,前述のように,今年度は新型コロナウィルス感染症の感染拡大によって,国内外の研究集会への参加および関連する研究者との研究打ち合わせなどに,多大な影響を受けた。これによって,研究遂行のための新たな視点の導入については,次年度の課題とせざるを得ない。次年度が本研究課題の最終年度であり,これまでの研究成果をまとめ,また研究成果の発表によって様々な研究者と交流し,さらに最終的な課題の解決に向けて研究を進める上で,現在の社会状況の変化,特に新型コロナウィルス感染拡大についての状況改善を期待しつつ,計画を練っている。一方で,状況改善を楽観視するだけでなく,そうならなかった場合にどのように研究交流を進め,最終的な課題解決に向けて,より新しい視点や研究手法を導入していくかをより現実的な立場で考えていきたい。 具体的な研究手法について,研究課題の達成に向けて考えていた2つの期待されるアプローチの候補:3次元多様体の双曲構造の詳細な解析,および,3次元多様体の普遍摂動的不変量(Le-Murakami-Ohtsuhi不変量)について,前者は海外の研究者グループ(D.Futer,J.Purcell,S.Schleimer),後者は伊藤哲也氏(京都大学)らによるデーン手術理論を基にした研究が進められている。これらの研究成果をより深く理解し,さらにコンピュータの活用も検討しながら,本研究の課題であるレンズ空間内の結び目補空間問題にどのように適用していくかを考えていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)新型コロナウィルス感染症感染拡大のため,旅費の支出が0であった。 (使用計画)社会状況が許せば,海外での国際研究集会への参加や,海外からの研究者招聘を再検討する。またあわせて関連する研究集会の開催を検討する。また国内外の研究動向を踏まえて,研究遂行にコンピュータ援用研究の導入を検討し,そのための支出についても検討を進める。
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