本研究の主な研究課題は,これまで様々な研究が進められている最も基本的な3次元多様体である3次元球面を拡張するクラスであるレンズ空間の中の結び目に焦点をあて,結び目理論研究の基礎となる問題「結び目補空間問題:同相な補空間をもつ結び目はいつ同値となるか」にアプローチすることである。特に,先行研究で重要な役割を果たしている,結び目に沿った同値でない矯飾的手術(同相な多様体対を生成するデーン手術)の研究に焦点を当てて研究を進める。 当該年度に得られた研究成果は,レンズ空間を含む有理ホモロジー球面内のホモロジカルに自明でない結び目が補空間によって決定される,つまり,同相な補空間をもつ結び目が同値となる,十分条件を与えたことである。具体的には,「レンズ空間内の1次元ホモロジー群の生成元を代表するような全ての結び目」および「1次元ホモロジー群の位数が7より大きい素数であるような非双曲的有理ホモロジー球面内の全ての双曲的結び目」は全て補空間で決定されることを示すことができた。これらの結果は,古典的なホモロジー群の表示を用いるものであり,とりわけ斬新なものではないが,近年に盛んに研究が進められているヒーガードフレアホモロジーなどを用いた先行研究の結果(ホモロジー的に自明な結び目に関する結果)を補完するようなものになっている。また,この研究をきっかけに,国内外において新たな研究の進展が得られていることも間接的には研究成果と言えるものと考えている。
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