研究課題/領域番号 |
18K03288
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
藤田 玄 日本女子大学, 理学部, 准教授 (50512159)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Dirac作用素 / 同変指数 / Kホモロジー / トーリック多様体 / Delzant多面体 / Gromov-Hausdorff収束 |
研究実績の概要 |
研究実績は以下の2つである。
1. コンパクトLie群が作用する(コンパクトとは限らない)多様体上のDirac作用素に対し、軌道に沿ったDirac作用素による摂動によりある種のKホモロジーサイクルおよび同変指数を構成した。本研究では古田幹雄氏と吉田尚彦氏との共同研究で用いていた摂動項ではなく、Kasparovのorbital Dirac作用素とBravermanのClifford作用の組み合わせを用いる。この同変指数は適切な仮定のもとでBravermanによる摂動から定まる同変指数と一致することもわかった。ただし、我々の構成による同変指数は格子点への局所化と相性がよいというメリットがある。応用として、トーリック作用の場合にDanilovの定理の非コンパクト版、およびS^1作用の場合の[Q,R]=0の別証明を得た。これらの証明は我々の先行研究で(コンパクトな場合に)得られていた証明よりも簡明なものとなっている。
2. 以下は北別府悠氏と三石史人氏との共同研究である。凸体の集合上のHausdorff距離と対称差のEuclid体積は同じ距離位相を定めることが古典的に知られている。3つめの距離関数として凸体の定める確率測度の間のWasserstein距離を考えると、それも同じ位相を定めることを示した。この位相のもとDelzant多面体からDelzant構成により(シンプレクティック)トーリック多様体を構成し、そこにベクトル空間の平坦計量から定まる計量(Guillemin計量)を考える。Delzant多面体の列に対して、面の数が一定であるという条件下でDelzant対応がGromov-Hausdorff距離に関して連続であることを示した。逆に、トーリック多様体の列が(測度付き)Gromov-Hausdorff収束するときDelzant多面体の収束を調べEuler数の半連続性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は本務校の海外研修制度を利用してMcMaster大学とToronto大学に滞在し、雑務に追われず時間をかけて腰を据えて研究に取り組むことができた。Loizides-SongおよびRodsphonらのHamiltonianループ群空間の幾何学的量子化に関連するDirac作用素の摂動の研究の理解を深めるうちに、これまで用いていた摂動項の代わりにKasparovのorbital Dirac作用素とBravermanのClifford作用による摂動項を組み合わせるという着想を得た。これにより、数年来懸案であった、BravermanのClifford作用による摂動から定まる同変指数と軌道に沿ったDirac作用素による摂動から定まる同変指数との一致を示すことができた。また、これによりこれまでに得られていた応用(Danilovの定理および[Q,R]=0)の証明をより簡明なものにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究結果を踏まえ、今後は以下の方針で研究を進める。
1. 2019年度構成した非コンパクト多様体の同変指数を用い、Loizides-SongによるHamiltonianループ群空間の幾何学的量子化の構成にならい、トーラスのループ群作用の場合に幾何学的量子化の構成を試みる。構成される量子化に対して、同変指数の格子点への局所化がどのような影響を与えるのか考察する。また、KasparovやLoizides-Song-Rodsphonらの先行研究を参照し、軌道に沿ったDirac作用素による摂動のKK積による記述を探る。
2. Delzant多面体の列が適当な意味で退化する(e.g. 面の数が極限において減少する)場合のDelzant対応のGromov-Hausdorff収束の様子を調べる。また、2019年度までに得られた結果をDelzant多面体の整アフィン変換群によるモジュライ空間上の問題として定式化する。その際、凸体の2次momentなどを用いてDelzant多面体の同値類からある種の標準的な代表元を選ぶことを考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外研修制度によるカナダ滞在のため国内旅費の使用額が減少した。新型コロナウィルスの影響で出張計画を立てるのも困難な状況であるが、可能な限り2020年度の旅費として使用する。場合によっては、2021年度への繰越や物品購入にまわすことも視野に入れる。
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