前年度までの課題であったトーラス作用の軌道に沿ったDirac作用素の摂動のKKペアリングとしての記述の応用を考察したが、残念ながら既存の結果を超えるものは得られなかった。また、当初の目的であったループ群のHamilton作用に関する同変指数理論の構築までは達成できなかったが、その途中経過といえる非コンパクトトーリック多様体の幾何学的量子化はそれ自体意義のあるものと考えている。一方、本研究課題を通じて得たトーリック多様体のRiemann幾何的な知見から得られた新たな2つの研究課題の発見は大きな成果であった。1つめはトーリック多様体とそれを特徴づけるDelzant多面体のRiemann幾何/ 距離幾何的な収束の関係の考察である。2つめはDelzant多面体上の双対平坦構造の幾何学とトーリック幾何学との関係である。前者については北別府悠氏(熊本大学)と三石史人氏(福岡大学)との共同研究を進めており、一定の成果を得ている。後者については双対平坦構造に対して重要な量であるダイバージェンスとその基本性質である一般化Pythagorasの定理を、トーリック幾何の性質を用いてDelzant多面体の境界に拡張する、という結果を得た。この結果は微分幾何関係のみならず、統計学、トロピカル幾何学などさまざまな分野の研究集会で講演を行った。またこの結果は専門誌Information Geometryに掲載された。これらの課題は、互いに独立した動機に由来するものであるが、幾何学的量子化、ミラー対称性、情報幾何学などを通じて互いに関連しあう可能性ももっている。
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