複素射影直線のホモロジー的ミラー対称性について研究を行った。複素多様体側がトーリック多様体のときのホモロジー的ミラー対称性として、シンプレクティック多様体側では深谷・ザイデル圏を考える定式化がある。一方、Strominger-Yau-Zaslow (SYZ)によるミラー対称なトーラス束の構成をもとにしたホモロジー的ミラー対称性として、シンプレクティック多様体側ではモースホモトピーの圏を考える定式化がある。こちらの定式化では現在トーリック多様体が複素射影空間の場合、ヒルツブルグ曲面の場合、トーリックファノ曲面の場合などにおいてホモロジー的ミラー対称性が肯定的に議論されている。これらの先行研究では、トーリック多様体の連接層の導来圏のよい生成系として強例外的生成系をとり、対応する対象から成るモースホモトピーの圏を議論する。一般にはモースホモトピーの圏はA∞圏の構造を持つが、これらの対象に制限すると高次の積構造はすべて消え、圏の構造は非常に簡単なものとなっている。今回はトーリック多様体が複素射影直線という最も簡単な状況において、射影直線上のすべての直線束に対応する対象から成るシンプレクティック多様体側の圏のA∞構造を構成した。このA∞圏は本質的にはモースホモトピーの圏と等価でなものであるが、一般の高次積構造をすべて正確に定義するために、深谷圏のある種の拡張として定 式化した。射影直線上の正則ベクトル束は直線束の直和となっているので、これはベクトル束のミラー対称物として考えるべきすべてのラグランジュ断面の成す圏のA∞構造を決定したことになっている。
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