2021年度は引き続き、測度距離空間 (metric measure space、mm空間) の幾何学に関する研究を行った。特に数川大輔氏(大阪大学)との共同研究で、測度距離空間の同型類全体の集合において Gromov が導入したボックス距離とリプシッツ順序に関して、任意のプレコンパクト集合が有界であること、つまりそのプレコンパクト集合に属す任意の測度距離空間を支配する測度距離空間が存在することを証明した。この主張には Gromov による証明のスケッチは与えられていたが詳細な証明は与えらえていなかった。今回、与えられていた証明のスケッチの一部を変更することで、詳細な証明を与えることが出来た。また、コンパクト距離空間の等長類全体の集合においても、Gromov-Hausdorff 距離とリプシッツ順序に関して同様の主張が成り立つことも証明した。これらの結果は現在、論文として雑誌への投稿の準備を進めている。
また、修士論文を指導した大学院生と、多様体の一般化の1つである階層体 (stratifold) を用いて定義されるホモロジーや多様体について成り立つ様々な定理の階層体への一般化、トレミーの不等式を満たす距離空間の性質、ハイゼンベルグ群の距離空間としての幾何学的性質、CAT(0)空間やBusemann空間などの非正曲率を持つ距離空間とその拡張などについて、定期的にセミナーを行い議論した。
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