研究実績の概要 |
任意の3次元双曲多様体は, 円周上の曲面束を有限次の被覆空間としてもつ(Agol の定理). 従ってこの曲面束の貼り合わせ写像は曲面の写像類群の元として擬アノソフになり, 3次元双曲多様体と擬アノソフ写像類が結びつく. 擬アノソフは, 曲面の自己同相写像としての複雑さを反映する代表的な3つの不変量: (1)エントロピー, (2)(曲線複体上の)漸近的移動距離, (3)体積を持つ. (1)(2)はそれぞれ擬アノソフによる, タイヒミュラー空間や曲線複体への作用の漸近的移動距離のこと, (3)は円周上の曲面束の双曲体積である. 本研究ではこれらの不変量の比較し擬アノソフ写像類を集団として理解し, それを3次元双曲多様体全体の理解へ還元することを目的としている.
一般に向き付け可能な3次元閉多様体はへガード分解を持つ. 作間 誠氏によると, 任意の向き付け可能3次元閉多様体Mのへガード分解に対して, そのへガード曲面をファイバーとする3次元ファイバー多様体 M' であって, M'はMを二重分岐被覆するものが存在する. Brooks は, このようなM'として双曲的なものが取れること, すなわちモノドロミーとして擬アノソフ元がとれることを示した. Brooks の議論からM のへガード分解を固定するごとに3次元ファイバー多様体であって双曲的なM' が無限に存在することがわかる. 報告者はM'の擬アノソフモノドロミーのエントロピーと3次元多様体M の性質の関連に注目した. 特にMが3次元球面や, ある種のレンズ空間の場合には最小エントロピーの漸近的挙動が最良であることを示した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べた研究成果, すなわちMが3次元球面やレンズ空間についてのみ成り立つ最小エントロピーの漸近的挙動が最良である性質は, 実は任意の3次元多様体Mについて成立すると報告者は予想している. 実際, 平成30年度実施した本研究では, より多くの3次元多様体Mについて成立することを確認した. 一般の場合に証明する鍵となる道具が揃ってきた.
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度は国際研究集会で成果発表をする機会が例年よりも多かったが, 沖縄, 韓国, 中国など, アジアで開催される研究集会が目立った. そのため旅費の使用が当初の見込みよりも少なかった. 報告者は2019年5月にEffie Kalfagianni 氏(米国・Michigan State University)を研究打ち合わせのために訪問するが, 残額をこの訪問の旅費の一部に充てる計画である.
|