研究実績の概要 |
向き付け可能な3次元閉多様体 M は, 二つのハンドル体の適当な貼り合わせによって得られる. 二つのハンドル体の共通の境界をへガード曲面といい, 3次元閉多様体のこのような分解をへガード分解という. M のへガード分解のゲーリッツ群とは, M の向きを保つ同相写像のイソトピー類が成す群であって へガード分解を保つもの全体が成す群である. 与えられた M の種数 g のへガード分解について, 安定化とよばれる操作により種数 g+1, g+2, g+3, ... を持つ M のへガード分解が次々と得られるが, それに付随して M のへガード分解のゲーリッツ群の列が得られる. 一方, 3次元球面内の任意の絡み目 L には橋分解とよばれる分解がある. これは上のへガード分解の3次元多様体内の絡み目における類似物と考えることができる. 廣瀬 進 氏, 井口大幹 氏, 古宇田悠哉 氏との共同研究によって, 報告者は絡み目 L の橋分解のゲーリッツ群を導入した. 橋分解の橋指数が n ならば, 橋分解のゲーリッツ群は, 2n 個のマーク点を持つ球面状の写像類群の部分群を定める. 与えられた絡み目 L の橋指数 n の橋分解について, やはり安定化とよばれる操作により橋指数 n+1, n+2, n+3, ... を持つ L の橋分解が次々と得られるが, それに付随して L の橋分解のゲーリッツ群の列が得られる. 本研究では, 橋分解の距離とゲーリッツ群の有限性の間の関係をはじめとする, 基本的な性質をいくつか明らかにした. さらに3次元球面内の自明な結び目やホップ絡み目について, 橋分解の安定化によって得られる, 橋分解のゲーリッツ群の列を考察した. 特にこのような(二つの)列に存在する, 擬アノソフ元全体の最小エントロピーの漸近的挙動を決定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べた絡み目の橋分解のゲーリッツ群という概念は, 自然な概念であって研究を行う意義は十分にある. 一方, この概念は導入されたばかりで重要な課題は山積みである. 申請者と上記の共同研究者達が執筆したプレプリントの中で, 課題を遂行するためのいくつかの道具を盛り込むことができた. 次の研究にはスムーズに着手できる.
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今後の研究の推進方策 |
① リサージュ組ひもの研究: リサージュ曲線とは, 互いに素な整数 m, n によってパラメータ表示される平面上の閉曲線である. 曲線を正規化すると, リサージュ曲線の上の任意の点は, 時刻 1 で元の位置に戻る. リサージュ曲線の上の等間隔な3点をとり, これらの3点の曲線上の点の動きを考える. 3点は互いに衝突しないので, 各時刻で曲線上の3点から三角形が定まる. 時間とともに, 曲線上の3点から定まる三角形は形状を変えるが, 時刻 1 で元の形状の三角形に戻る. あるいは 3点の軌道から本数3 の組ひも (3次組ひも)が得られるといってもよい. 報告者は, 小川 裕之 氏, 中村 博昭 氏との共同研究により, リサージュ3次組ひもの特徴づけ, (写像類群の元としての)エントロピーの研究を行う. これまでの本研究で, 実数の蓮分数展開の数論的な性質とリサージュ組ひもが関連することがわかっている. 今後はこれらの結果をさらに進化させる. ② 橋分解のゲーリッツ群の研究: 「研究実績の概要」で述べた絡み目の橋分解のゲーリッツ群の基本性質(特に擬アノソフ元の性質)について研究を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度3月に参加予定であった, 4つの国内の研究集会が新型コロナウィルス感染拡大防止のため全て中止・延期になった. そのため, これらの研究集会の旅費に当てていた30万円相当の研究費が未使用になり, 次年度使用額が生じた. 次年度に繰越になった研究費は, オンライン会議をスムーズに行うためのタブレット, コンピュータ周辺機器の購入のために使用する. 剰余分は秋以降の国内旅費に充てる.
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