研究実績の概要 |
令和元年度は, 前年度(平成30年度)に引き続き, Darondeau-Pragaczの公式を複素コボルディズム理論へ拡張するという研究を継続し, 結果を論文「Darondeau-Pragacz formulas in complex cobordism」(arXiv:1910.03649)にまとめた. さらに「普遍ファクトリアルHall-Littlewood P-関数」の母関数の表示の誤りを修正し, 先に発表した論文(arXiv:1705.04791)の修正版である「Generating functions for the universal factorial Hall-Littlewood P- and Q-functions」を近日中に公表する予定である. これらの研究を進める過程で, ベクトル束に付随する旗束に関連するGysinの公式とその具体的な表示であるDarondeau-Pragaczの公式, トーラス同変コホモロジー理論におけるAtiyah-Bott-Berline-Vergneの公式とそれを留数で表示する留数公式の関係を調べ, K-理論の場合の予想式を立てることができた. その特別な場合として, Buchによる1行の分割に対するGrothendieck多項式の表示が直ちに得られる. また, これと関連して, Schur関数についてのGustafson-Milne型の等式とこれに関連する補間公式(Chen-Louck)やHiepの公式, Grothendieck多項式についてのGuo-Sunの公式について調べ, Darondeau-Pragaczの公式からHiepの公式やGuo-Sunの公式が導かれることを示した. さらに, 等質空間のコホモロジーに関連する研究も継続し, 西本哲氏の協力を得て, いわゆるRosenfeld平面の一つである対称空間EVIの8次Stiefel-Whitney類が0でないことを示し, EVIが(R. Hoekzemaの意味で)4-向き付け可能でないことを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
この2年程は, Darondeau-Pragaczの公式の複素コボルディズム理論への拡張と普遍ファクトリアルHall-Littlewood P, Q-関数の母関数表示, これらに関連する一連の「Gysinの公式」の研究に多くの時間を費やすことになり, 「交付申請書(様式D-2-1)」に記載した研究実施計画の内の「p-コンパクト群の等質空間のトーラス同変コホモロジー環の記述」や「組合せ論的Hopf代数の位相的モデルの構成」といった位相幾何的な研究が立ち遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
早急に論文「Generating functions for the universal factorial Hall-Littlewood P- and Q-functions」を完成させることが先決である. 次に「p-コンパクト群の等質空間のトーラス同変コホモロジー環の記述」に着手したい. これに関しては, 既に研究分担者である成瀬弘氏によって, いくつかの複素鏡映群の場合に, 付随する「同変余不変式環」のSchubert基底に相当するものがHall-Littlewood関数の変形を用いて純代数的に構成されているので, 今後は, これらの結果に位相幾何学の立場から「p-コンパクト群の等質空間のトーラス同変コホモロジー環」としての解釈を与えることを目標として研究を進めていきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
学内業務との関係および新型コロナウィルス感染拡大の影響で, いくつかの研究集会への参加を見送ったことなどから, 次年度使用額が生じてしまった. 今年度も出張計画が立てにくい状況が続いているが, 可能な限り早めに計画を立て, 実行していきたい.
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