研究実績の概要 |
複素曲面上の正則曲線の変形について研究した。約100年前にイタリアの数学者 Severiは代数曲面に埋め込まれた滑らかな代数曲線が, semi-regularという条件を満たすと, 1次の無限小変形が任意の次数まで拡張できる事を示した。2018年度の研究ではこの結果を踏まえて, 特異点を許す被約な複素曲線から複素曲面への, 局所埋め込み射の場合にsemi-regularityの概念を拡張し, 1次変形の拡張に関する結果がこの場合にも成立する事を示した。これにより定理の適用範囲が大幅に拡大し, 複素曲面上の少数の複素曲線から, 数多くの複素曲線を構成することが可能になった。定理は全ての複素曲面に対して応用を持つが, とりわけ標準束が自明である複素曲面の場合は, 被約な複素曲線からの局所埋め込み射は全てsemi-regularityを満たすため, 非常に有効性が高い。具体的な応用として, 複素偏極K3曲面に対し, そのモジュライ空間のZariski稠密な開集合で, それに属するK3曲面は次の性質を満たすようなものが存在する事を示した。すなわち, 任意の自然数gに対し, 幾何種数がgであるような代数曲線のg次元の族で, 一般の元は既約であるようなものが無限個存在する。g=1の場合はさらに強い結果を示すことができ, 次を示した。すなわち, 任意の複素射影的K3曲面上には, 無限個の異なるelliptic pencilの構造が存在する。この研究以前には, 任意の複素射影的K3曲面上には少なくとも一つelliptic pencilの構造が存在することが知られていたが, それを大幅に拡張した。
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今後の研究の推進方策 |
semi-regularityの研究は, Severi以後Kodaira-Spencer, Bloch, Buchweitz-Flennerなどに引き継がれ, 様々な観点から研究されている。とりわけ, Blochは任意の局所完全交差の場合にまでsemi-regularityの概念を拡張しており, 写像の場合も対応する結果が成立すると予想される。また, 正標数の場合への応用を考えると, 純代数的な証明を考えることも重要な課題である。今後はこれらの点について研究したい。
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