研究実績の概要 |
退化した多様体上の正則曲線の研究においては, 一般に特異な多様体またはトロピカル多様体と呼ばれる組み合わせ的な対象上のグラフを用いた手法が有効な場合がある。その一例として, 1990年代後半のFukaya-Ohや2000年前後のFukayaによる研究においては, 正則ディスクを適当なモース関数に関する勾配軌道と関係させる試みが提案された。一方, 同時期にFormanにより(多様体と限らない)CW複体上の離散モース理論が考案され, 純粋数学および応用分野において広く用いられている。Formanの理論においては勾配流は胞体の集合上の写像として定義され, 実際にベクトル場の勾配流をとるわけではない。今年度の研究においては, 離散モース理論と上記のグラフによる正則曲線の研究の双方を念頭に置き, CW複体上の一定の条件を満たす関数に対して勾配ベクトル場と勾配流を定義し, その積分曲線を用いることでモース理論を構築できることを示した。これは多様体とは限らないCW複体にも適用できるようになっており, それを反映して通常のベクトル場とは全く異なる性質を持ち, 特に勾配流が(無限に)分岐する場合もある。これは, 区分線形多様体上の区分線形なベクトル場に対する積分曲線の良い定義を与えたとも解釈できる。 もう一つの研究として, 一般型の複素曲面上の特異曲線の変形を考察し, 曲線がsemiregularityという条件を満たす場合, 種数を変えない変形に関してほぼ最良の性質を持つことを見出した。
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