作用素環論の知見を活かして、量子ウォークの研究を行った。オンライン、対面の両方で口頭による研究発表を行った。査読付き研究論文の執筆はもちろんのこと、研究の概要を説明する解説論文も執筆した。量子ウォークに関わる若手研究者の研究会もオーガナイズした。 量子ウォークは古典的な確率論では記述できない、量子物理学と関連する確率分布の変遷を記述できる、数学的な研究対象である。これまでの量子ウォーク研究は、研究者が興味を持った特定の過程に注目し、その振る舞いを調べるという方針が一般的であった。それらの具体的な量子ウォークの振る舞いには興味深いものがあり、多くの研究者の耳目を集めることとなった。 しかしながら、その方針だけでは実行できない研究課題も数多くある。そもそも、量子ウォークによって記述できる物理学的な過程は何なのか、そして量子ウォークによって記述できない過程は何なのか。それらの問いに対して答えようとする研究は行われていなかった。その主な原因は量子ウォークの定義が与えられていなかったことが主な要因である。 本研究では量子ウォークの定義として、ヒルベルト空間H、そこに作用するユニタリー作用素、およびHの直交射影に値をとるスペクトル測度、の三つ組みを提案した。単に定義するにとどまらず、空間一様量子ウォークについては種々の収束定理を証明することに成功した。従来の研究で、量子ウォークの確率分布の収束定理を証明したとされるものがあったが、その誤りと適用範囲の限界を指摘することができた。
|