研究課題/領域番号 |
18K03331
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
中西 敏浩 島根大学, 学術研究院理工学系, 教授 (00172354)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | タイヒミュラー空間 / リーマン面 / 離散群 / 双曲多様体 / 写像類群 |
研究実績の概要 |
次の2つのテーマのもとで研究を進めた。 1.2つ穴あきトーラスのタイヒミュラー空間の研究。タイヒミュラー空間は位相的には球体に過ぎないが,幾何的構造(タイヒミュラー計量,ヴェイユ・ペーターセン計量などさまざまに存在する)を付帯した空間としての形状や性質について未知な部分が多い。タイヒミュラー空間が2次元空間である1つ穴あきトーラスについては多くの研究があるが,それ以外は2つ穴あきトーラスのような位相的に単純な曲面の場合でさえあまり研究は進んでいないようである。私たちは従来の研究で有限型双曲曲面のタイヒミュラー空間に大域的座標系を導入し,それを用いて写像類群を有理変換が作る群として表現できることを示した。この結果を2つ穴あきトーラスのタイヒミュラー空間に応用し,この空間について次のようなかなり包括的で多岐に渡る知見を得ることができた。(1) 2つ穴あきトーラスのタイヒミュラー空間に大域座標系を導入し,空間をごく単純な多項式で定義される超曲面として表現することができた。この座標系は従来の研究で得られたものとは異なるのみならず,逆に一般のタイヒミュラー空間により扱いやすい座標系の存在を示唆するものである。 (2)2つ穴あきトーラス群のフックス表現の具体的な行列表現を得た。 (3)2つ穴あきトーラスの写像類群の研究を行った。(1)で得られた写像類の有理変換表現を用いて有限位数をもつ写像類の分類と,それらのデーン・ツイストの積として表現を得た。 (4)ファイバーが2つ穴あきトーラスである円周上の3次元双曲3次元多様体とそれらに付随する離散群(クライン群)の例をいくつか構成することができた。 2.ディリクレ基本領域の研究(牛島顕金沢大学准教授との共同研究)フックス群の安定的ディリクレ基本領域を生み出す点の集合がジェネリックである(その補集合の2次元ルベーグ測度0をもつ)ことを証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定よりも多くの時間を要したが,2点穴あきトーラスのタイヒミュラー空間についてさまざまな結果をえることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
2020 (令和2)年度は引き続き2点穴あきトーラスのタイヒミュラー空間研究に重点を置く。 第一の課題は3次元双曲3次元多様体の例の一つの系列を作ることである。研究実績の概要の(4)にあるようにファイバーが2つ穴あきトーラスである円周上の3次元双曲3次元多様体とそれらに付随する離散群(クライン群)の例をいくつか得たが,その過程で得られた手法や計算プログラムを活かして3次元双曲3次元多様体の無限列を具体的に構成し,それらの形状と結び目理論との関連,位相的・幾何学的不変量(双曲的体積や数論的群であるかの判定),さらにその極限である幾何的対象物などを研究する。その際,大きな障害となる群の離散性の判定のために必要となるコンピュータによる数式処理・画像処理を伴うアルゴリズムを開発する。 第二の課題は写像類群の有理変換表現を用いて,その力学系を研究することである。写像類群の複素力学系と曲面群のSL(2,C)離散表現空間との関係,擬アノソフ的写像類の不動点に近傍における力学系的空間(ジュリア集合やファトゥー集合)の形状について調べる。他に,向き付け不可能曲面の写像類群の有理変換群としての表現を求める。
閉曲面のタイヒミュラー空間の研究には穴あき曲面より多くの困難が予想される。まず種数2の閉曲面のタイヒミュラー空間とその大域座標系の研究を行う。その指標として種数2の閉曲面をファイバーにもつ円周上の3次元双曲3次元多様体の具体例の構成,種数2の写像類群に含まれる三角群の分類と双曲平面からタイヒミュラー空間への群の作用と共変な等長埋め込みの存在・非存在,種数2の数論的フックス群あるいはクライン群の分類を課題とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
双曲多様体とモジュライ空間に関連する国際研究集会を島根県松江市で開催し,招待研究者との研究打合せ・情報交換のを行うことを予定しており,その旅費に充当するため。
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