研究実績の概要 |
種数2の閉曲面のタイヒミュラー空間の大域座標系を用いた写像類群の研究をおこなった。双曲閉曲面上の閉測地線の長さはタイヒミュラー空間上の関数(測地的長さ関数)を定める。種数g>1の双曲閉曲面のタイヒミュラー空間は6g-5個の測地的長さ関数の組による座標系を許容するので,g=2の時は7個の測地的長さ関数によるタイヒミュラー空間の大域座標系が存在する。これら7個の測地的長さ関数が双曲曲面を一意化するフックス群(曲面の基本群の忠実かつ離散なPSL(2,R)表現)を共役の違いを除いて復元するが,そのフックス群を具体的に求める研究は多くのタイヒミュラー空間の研究の中でも欠如していた。研究業績の一つは,適切に選んだ7個の測地的長さ関数からフックス群の生成系の行列表現を求めたことである。さらにこの測地的長さ関数の座標系を用いて写像類群のタイヒミュラー空間上の作用が有理変換で表されることを示した。アールフォルスやベアスらによる研究で明らかになったようにタイヒミュラー空間とクライン群(PSL(2,C)の離散部分群)および双曲3次元多様体とは密接につながっている。円周上の曲面束の構造をもつ双曲3次元多様体は曲面群のベアス埋込みを用いた擬フックス群表現の空間の境界にあり,擬アノソフ的写像類の不動点を用いて構成される。私たちは上で述べた測地的長さ関数を複素化して曲面の基本群のPSL(2,C)表現の空間の座標系に拡張し,そこでも写像類群が有理変換群として作用することを用いてこのような双曲3次元多様体の例を見つける研究をおこなった。現在,その一例と考えられるものについて計算を行なっている。その群の元は16次の代数的数を原始元とする代数体に成分をもつSL(2,C)の行列であり,コンピュータによる数式処理を援用しても計算が大変であったが,もっとも困難な離散性の判定については最終段階に入っている。
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