研究実績の概要 |
1.多様体に値をとるウィナー汎関数に対するマリアバン解析について整備した。多様体に値をとるウィナー汎関数のH-微分とそれから定まるマリアバン共分散を(2,0)型テンソル値確率変数として定義し、それらの局所座標系を用いた局所的な表現を与えた。これらの表現に依り、ユークリッド空間上の定義の自然な一般化となっていることを確認した。さらに、制約条件下での非退化性という、より多様体に適合した概念を導入し、非退化性のもと部分積分の公式を導出した。また、非退化性は実はウィナー汎関数がマリアバン解析の意味で沈め込みとなっているという条件と可積分性に関する条件を纏めたものに他ならないことを明らかにした。 2.一般のパラメータγ>0をもつグルーシン作用素で生成される拡散過程の遷移確率密度関数p(T,(x,y),(z,w))について調べた。まず、密度関数をピン留めブラウン運動を利用して期待値表現する新しい表示式を得た。そして、この表示式を用いて、遷移確率密度関数の短時間漸近挙動(T→0での挙動)を明らかにした。とくに、対角線漸近挙動((x,y)=(z,w)の場合の漸近挙動)においては、グルーシン作用素の退化超平面({x=0})の影響がT→0での発散オーダーに現れることを示した。すなわち、x=0かどうかにより、発散オーダーがγに応じて変化することを証明した。また、非対角線漸近挙動においては、大偏差原理やピン留めブラウン運動の最大値の確率分布を利用することにより、T log(p(T,(x,y),(z,w))のT→0における極限値が存在することを示し、これの|y-w|→∞における発散のオーダーに2/(1+γ)という形でパラメータγが現われることを見出した。
|
今後の研究の推進方策 |
グルーシン作用素で生成さえる拡散過程の遷移確率密度関数p(T,(x,y),(z,w))のうち、短時間漸近挙動のうち T log p(T,(0,y),(0,w))の場合は、上極減の上からの評価、下極限の下からの評価しか得られていない。とくにγが偶数の場合に、解析幾何学的手法を用いた先行結果を利用しながら、極限の存在とその具体形を明らかにする。
|