研究実績の概要 |
パラメータγ>0を持つグルーシン作用素に付随する熱核p(t,(x,y),(ξ,η))のt→0における漸近挙動(短時間漸近挙動)について得られていた前年度の結果をさらに精密化し、完全なバラダン型の漸近挙動の導出に成功した。熱核の経路空間上のウィーナー測度に関する積分表示と大偏差理論におけるバラダンの補題を巧妙に利用することで、指数減衰オーダーを変分で与えられる関数mを用いて(-1/2){|ξ-x|+m(x,ξ,|η-y|)}と表現することができた。 γが自然数の場合は、準楕円型のサブエリップクティック作用素の典型例として、偏微分方程式論的な手法で、対応するコントロール距離が短時間漸近挙動の指数にあらわれること、およびその|ξ-x|、|η-y|→∞における漸近挙動が詳しく調べられている。γが整数でない場合は、準楕円型サブエリプティック偏微分作用素のカテゴリーを外れ、これまで短時間漸近挙動に関する研究結果は得られていなかった。本研究の確率解析的手法により、一般のγまで短時間漸近挙動を解明できた。さらに、本研究によって得られて減衰オーダーはこれらの結果を再現するだけでなく、x=ξ=0の場合には知らていなかった厳密なコントロール距離の表示を与えることができている。これはコントロール距離に関する新たな結果となっている。また、x=ξ=0の場合は大偏差原理の応用に技術的な仕掛けが必要となり、その意味でも本研究の手法は興味深いものである。 また、本研究の中でSlobodeckijノルムのウィーナー測度に対する指数可積分性を明らかにした。このノルムはマリアバン解析の応用における経路空間の局所化の議論においてしばしば現れるものであり、その指数可積分性は重要な基本的性質である。
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