研究課題/領域番号 |
18K03337
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
原 隆 九州大学, 数理学研究院, 教授 (20228620)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | くりこみ群 / 臨界現象 / 低温相 / φ4モデル / 量子統計力学 |
研究実績の概要 |
臨界現象の解明は,統計力学の数理的研究における大きな研究テーマの一つである. 1970年代に「くりこみ群」のアイディアが物理学者によって確立されてからほぼ10年で,その数学的に厳密な研究の一端が完成した.特に,「高温相」から臨界点に近づく際の臨界現象については,ある程度満足の行く厳密な結果が得られた.ところが,系がその「低温相」側から臨界点に近づく場合の臨界現象は,これまでほとんど厳密には解明されないままで,低温相側からの臨界現象の解明は,臨界現象の数学的解析の中での,大きな未知のフロンティアである. 本研究では,厳密くりこみ群の手法を発展させて,この最後の フロンティアを開拓することを主目的としている.特にイジング模型および関連するφ4模型における低温相からの臨界現象の解明をめざしている.これまでに内外の専門家と深く議論し,どのようなアプローチが可能か,それらの内包する困難は何か,などを探ってきた.その結果として,当初に想定していたアプローチは,方向としては正しいという確信を得た.ただし,その議論の中で,(当初から予想して いたことではあるが)いくつかの困難も当然, 明確になってきた.特に,当初から予想していた「large field の 問題」が,まだ完全には解決されていない.現在,これらの困難(特に large field の問題)を解決すべく,様々な例にたいして計算を行っている. しかし一方で,この問題と関連した「エネルギー空間でのくりこみ群」のアプローチに2年ほど前に思い至った.この方向での解析を進めた結果,関連した問題(特に量子統計力学における緩和時間の問題)にもこの考え方が有効であるとの確信を得た.これも非常に面白いのでこの方向の研究をも進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「やや遅れている」最大の理由は,研究そのものではなく,COVID-19の感染拡大,およびそれに伴うオンライン(オンデマンド)授業への対応である.令和4年度は3年目でもあり,状況がかなり改善すると期待した.実際,感染対策としては楽になったが,COVID-19以前に(部分的に)戻すには以前の2年間と同様の体力を要した.結果として研究の進み具合は少し遅めになってしまったが,大学教員としての責務を考えれば仕方がなかったと考える. さらに,感染そのものは過去最高に広がったため(知人の研究者などにも海外渡航時の感染者が続出),海外出張を通しての議論をすべて諦める決断をせざるを得なかった.これも非常に残念であるが,もともと病気になりやすい自分としてはやむを得ないことだったと考えている. なお,令和2年度後半からは「エネルギー空間でのくりこみ群」の考えにしたがって,理論計算と数値計算をかなり行っている.この方向を推し進めて2年半ほどが経過し,かなりの計算結果とデータが蓄積した.その結果として,何が起こっているのかが良く見えるようになってきた.この方向は予期しなかった非常に面白い結果につながる可能性が高い.シンガポールでの大きな研究集会も12月に予定されており,令和5年度こそは,COVID-19に余分な力を割かれずに研究を推し進めたい.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた知見を元に,現在行っている解析を推し進め,問題を解決するのが最大の目的である.特に,large field problem の解決に注力する.そのため,ソフトなφ4乗モデルに関して,様々な方法での解析を継続する.同時に,必要な数値計算も行なって,直感の裏付けを行う. Large field problem に関しては,それ自体も問題なのだが,むしろ,「低温相におけるクラスター展開の収束性」と,「くりこみ群によって低温相 の どこまで踏み込めるか」との関わりにも本質的に効いてくる.クラスター展開とくりこみ群解析を並行して更に練磨し,large field problem との関わり合いを 深く吟味しながら,この大問題の解決を目指す. さらに,少し異なるが有望な方向として「エネルギー空間におけるくりこみ群」の研究をさらに推し進める.その知見とこれまでの方法との融合を図って large field problem の解決を目指す.同時に,その意外な応用として,量子統計力学における緩和時間の問題の解析も押し進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた最大の理由は,いうまでもなく,COVID-19の蔓延である.令和4年度こそは(COVID-19の3年目でもあるので状況が回復することを十分に期待して)海外の研究者と「対面で」議論を繰り返すつもりであった.ところが続々と出現する変異株の世界的蔓延により,私の近辺に感染者が多く出現することとなった --- 特に国際学会に出席した何人もの研究者が「ホテルに閉じこもって食事も自室で摂った」にもかかわらず感染した.このため,海外渡航を断念したものである. これからの使用計画であるが,COVID-19への"new normal"を踏まえて,「対面」議論のための渡航を主に考えている.特に,この12月にシンガポールで大きな国際会議があるので,それにぜひ出席して議論を行い,知見を広めたい.
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