研究課題/領域番号 |
18K03344
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
服部 哲弥 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 教授 (10180902)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 確率論 / 数理科学 / 確率過程論 / 大数の法則 / 流体力学極限 |
研究実績の概要 |
本研究は,確率順位付け模型と呼ぶ粒子系の流体力学的極限についての応募者自身のこれまでの研究成果を土台として,その数学的な広がりや基礎付けのより良い理解を含めてあらゆる方向への発展可能性の研究を目的とする.さらに,この課題に至った申請者の研究姿勢に基づいて,特定の模型や問題にこだわらず,広く他分野や現実の現象の数学的特徴を抽象して,精密な極限定理を中心とした数学的性質を見出すことを目的とする. 良く言えば世界的に他の追随を許さない独創的研究と自負するが,逆に言えば,基礎研究に対する余裕が小さい時代に選択や集中から漏れる側かもしれない本研究の特色に鑑みて,特に本科研費研究課題期間はこれまで,成果についての原著論文の出版や関連する基礎事項についての教科書の執筆など,完成度を高めて後世に残すことに時間を割いてきた.前年度までで何とか主要論文の採択・出版に至っていたが,今年度は出版社の先行原稿のバックログで延びていた総説が日本数学会の機関誌から無事出版されて一段落した. 本年度はもう1点,新たな教科書の執筆を終えて出版に至った.ルベーグ積分に関する基礎問題集の体裁を取っているが,本研究の数学上の基盤である確率論および測度論を一般化する概念である非加法的測度に関する知見を根底から整理して,これまで応用からの関心から多岐にわたって提唱されていた定義の中から数学的に筋の良いものを選んで,初等的な知見をその中で整理することに成功した.非加法的測度は応用側からは数理経済学のゲームの理論や数理ファイナンスや数理統計学を含むもので,本研究課題と申請者が目指してきた,特定の模型や問題にこだわらず,広く他分野や現実の現象の数学的特徴を抽象して,数学的性質を見いだす研究理念に整合している.来年度以降の最終年度前年度応募を含めた新たな研究の方向性として期待している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
確率順位付け模型に関する主要論文を出版済みであったが,主要な総説記事の出版に至り,さらに今後の新しい発展につながる可能性のある基礎事項を含む教科書を出版した.
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今後の研究の推進方策 |
当初の狭い意味での課題であった確率順位付け模型の基盤的な論文と関連する基礎的な総説記事の出版が完了して,本研究課題は目標の最低限の達成を確実とした.さらに,本年度後半に,本研究課題を含む広汎な数学の分野を支える測度論の非加法的測度への一般化の端緒となり得る基礎事項を,ルベーグ積分に関する基礎問題集に書き込むことに成功した.引き続き,ゲームの理論,数理ファイナンス,数理統計学などの諸分野から題材を集めつつ,数学的な極限定理の形に整理統合して確率論の研究の広がりの進展を目指したい.これまでの確率順位付け模型という狭い枠をはみ出す余地が多分にあるので,最終年度前年度応募も視野に入れることを考える. 予算執行に関しては,伝染性の強いウィルスという予期せぬ逆風に翻弄された1年であったが,今後は,まとめ買いなどの工夫で,登校や対人的接触の機会を抑えつつ予算執行に伴う研究推進も計ることで体制を立て直す.
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次年度使用額が生じた理由 |
旧年中は新型コロナウィルス感染対策のため,登校自体を差し控えていたので,出張はもちろん,科研費による支出に伴う物品の受け取りや書類の提出の不自由から,本研究課題にとって継続的な使用が不可避の無線LANルータ契約を除いて支出が計画できず,多額の次年度への繰り越しが生じたが,在宅の研究ではたとえばパソコンの使用状況がこれまでよりも密度が濃くなっており,性能や経年劣化を考慮すると,今年度考えていたパソコン等IT関連機器を次年度にバックアップも含めて購入する必要がある.年々高額化しており,余るという懸念はまったくないが,次年度の早い段階でなるべくまとめて使用していきたい.
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