本研究は,確率順位付け模型と呼ぶ粒子系の流体力学的極限についての応募者自身のこれまでの研究成果を土台として,その数学的な広がりや基礎付けのより良い理解を含めてあらゆる方向への発展可能性の研究を目的とする.さらに,この課題に至った申請者の研究姿勢に基づいて,特定の模型や問題にこだわらず,広く他分野や現実の現象の数学的特徴を抽象して,精密な極限定理を中心とした数学的性質を見出すことを目的とする.良く言えば世界的に他の追随を許さない独創的研究と自負するが,逆に言えば,基礎研究に対する余裕が小さい時代に選択や集中から漏れる側かもしれない本研究の特色に鑑みて,特に本科研費研究課題期間はこれまで,成果についての原著論文の出版や関連する基礎事項についての教科書の執筆など,完成度を高めて後世に残すことに時間を割いてきた. 主要論文の採択・出版,総説の出版,基礎となる測度論の教科書などを前年度までに済ませてきたが,本年度に取りかかった大学初年級向けの統計学の教科書の執筆が難航している.統計についての初等・中等教育が文科省指導要領の改訂で強化される一方,大学の数学教育の水準が下がって微分積分や線形代数などの大学の初年級教育の守備範囲が後退する中で,それらを要する大学初年級水準の数学としての統計学の範囲を決めるという,数学教育の混乱状況が見られる.さらに著作権が文化よりも経済的利益として扱われる時代を背景に,出版業界の著作の専門性や難しさに対する考え方の後退も見られ,著作の構成に労力と時間を割かれている. なお,狭い意味の目標であった確率順位付け模型については前年度までに一応の完成としたことを受けて最終年度前年度応募していたところ採択をいただいたので,上記を含む基礎事項関連の教科書の執筆は次の研究課題に進むための土台となる.
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