研究課題/領域番号 |
18K03347
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研究機関 | 津田塾大学 |
研究代表者 |
永井 敦 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (90304039)
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研究分担者 |
亀高 惟倫 大阪大学, その他部局等, 名誉教授 (00047218)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 離散 / ソボレフ不等式 / グリーン関数 / C60フラーレン |
研究実績の概要 |
本年度は離散ソボレフ不等式の研究を中心に行って以下の結果を得た。 (1) C60フラーレンへの応用 バッキーボールC60フラーレン上の離散ソボレフ不等式とその最良定数に関する結果を2015年Journal of Physical Society of Japan 84巻 074004 に1編の論文として発表した。本論文はその拡張である。1812個のC60異性体について離散ラプラシアン行列を定式化し、そのグリーン行列(ペンローズ=ムーア一般化逆行列)を計算した。グリーン行列はヒルベルト空間を適切に設定すると再生核行列となることが分かった。次に再生等式から離散ソボレフ不等式を導出し、不等式の最良定数(=グリーン行列の対角線値の最大値)を計算した。最良定数はすべて有理数で与えられ、1812種類の異性体に対応する最良定数を比較したところ、バッキーボールに対応する最良定数が一番小さいことを確認した。これはバッキーボールが一番安定している、つまり硬いことを数学的に厳密に証明したことになる。本研究成果は1編の論文として、JSIAM Lettersに現在投稿中である。 (2) 離散有理関数型写像におけるカオス現象について カオス写像であるロジスティック写像と可積分系写像である森下写像を1パラメータ a で結んだ離散有理型写像を考えた。その結果、パラメータの値を0から1まで連続的に変化させて、分岐図を構成した。その結果パラメータの値がある臨界値を超えると2周期、4周期、8周期…となり最終的にカオス的な挙動を示すことが分かった。臨界値を計算して、臨界値の差の比がファイゲンバウム定数に近いことを確認し、また途中でカオス現象独特の周期3が現れることも確認した。本研究成果は2019年6月に開催された国際会議ISLAND5にて1件のポスター発表を行い、現在論文を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
離散ソボレフ不等式の研究については、1812種類のC60の離散ソボレフ不等式の最良定数の計算に成功した。本研究成果は1812種類あるC60の異性体の中でバッキーボールが最も安定である、つまり硬いという主張に関する数学的基盤が得られたと確信している。 また離散力学系においても新しいカオス写像を得ることができ、カオス写像であることを裏付ける分岐図およびファイゲンバウム定数に対応する量を計算することもできた。
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今後の研究の推進方策 |
以下の2点を中心に研究を遂行する予定である。 (1)さまざまなグラフ上の離散ソボレフ不等式とその最良定数の計算 今後もさまざまな多面体グラフに対応する離散ラプラシアン、グリーン行列、離散ソボレフ不等式の最良定数を計算する。特にこれまでは頂点を結ぶ辺上のバネ定数が一定のグラフを考えてきたが、カタラン多面体など、辺によってはバネ定数が異なる、物理的には単結合と2重結合が共存するようなグラフも現実問題としては重要である。そのようなグラフについても1つ1つ丁寧に離散ラプラシアンの性質を調べたい。 (2)偏微分方程式とそのグリーン関数 偏微分方程式、特に重調和作用素や高階熱作用素などに対応するグリーン関数を調べる。ここで高階を考えるのは、多変数の場合は微分階数が一定以上でないとソボレフ不等式自体が成立しないためである。グリーン関数の立場から述べると、最良定数計算にはグリーン関数の対角線値が重要であるが、低階偏微分作用素、例えばラプラシアンのグリーン関数の対角線値は発散する。数式処理を駆使してグリーン関数を計算して、対応するソボレフ不等式の最良定数を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者の亀高惟倫名誉教授と日程調整がうまくいかず、年度末の数学会や応用数理学会での研究発表や研究打ち合わせもキャンセルになったため。
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