研究課題/領域番号 |
18K03348
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
中村 豪 愛知工業大学, 工学部, 教授 (50319208)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 複素解析 / リーマン面 / クライン面 / モジュライ空間 / タイヒミュラー空間 |
研究実績の概要 |
本研究課題の対象である最大単射半径関数とは、閉リーマン面のモジュライ空間上の関数であり、各リーマン面にその単射半径の最大値を対応させる関数である。これは自然にタイヒミュラー空間上の関数に持ち上げられる。この最大単射半径関数の性質を調べる1つのアプローチとして、この関数の最大値を与える閉リーマン面(極値的リーマン面)を考察することが挙げられる。本年度は種数2の閉リーマン面のタイヒミュラー空間を取り上げ、この空間に作用する写像類群の元の構成を行い、標識付き極値的リーマン面への作用の仕方を考察した。タイヒミュラー空間のモデルとしてSchmutz Schaller氏による同次座標系を応用した実7次元空間の部分集合を用いた。これは、辺と内角に条件をもつ双曲8角形の集合を基にしたものである。そこで写像類として次のものを考案した。タイヒミュラー空間の元であるSchmutzによる多角形に対して、ある変形を行うことで新たな標識を備えた双曲8角形が再びSchmutzの多角形となるようにし、この多角形を対応させることで写像類を定義する。このタイプの写像類から3種類を取り上げ、7変数による表示を与えることに成功した。1つは位数4の周期的元である。この表示を応用して、写像類による標識付き極値的リーマン面の動きを、コンピュータを利用することにより観測した。この軌道を調べる際に、ある距離をタイヒミュラー空間に導入している。また、このタイヒミュラー空間のモデルを用いて、最大単射半径関数を構成する手順を考察した。まだ正確な表示には至っていないが、フックス群の生成元を利用したものである。これらの結果は国内外で開催された学会・研究集会において発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はリーマン面及び向き付け不可能曲面であるクライン面のモジュライ空間上の最大単射半径関数が研究対象である。本年度はリーマン面を中心に研究を行った。本年度の進捗状況は次の通りである。1.種数2の閉リーマン面のSchmutzの多角形に基づくタイヒミュラー空間のモデルにおいて、そこに作用する3種類の写像類を構成することができた。2.この3種類の写像類及びその逆写像を、測地的長さ関数による7つの変数を用いて具体的に表示することができた。3.この写像類の表示を利用して、9種類の標識付き極値的リーマン面への作用をコンピュータで調べることが可能となり、写像類を増やすことにより軌道間の距離の更なる評価が期待できるようになった。ここで軌道間の距離を測るために用いた距離は、対応するSchmutz多角形の歪曲度を表している。まだ改良の余地があると考えられるが、現状では成果を成しているといえる。4.最大単射半径関数の構成については、まだフックス群の必要最小限の元を絞り込めていないため、十分ではなく更なる考察を要するが、その手順を導くことができたため前進したといえる。これらによりおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果を元に、リーマン面及びクライン面の最大単射半径関数の性質を調べていく。Schmutzの多角形によるタイヒミュラー空間のモデルに作用する写像類群を得ることは容易ではないと思われるが、その部分群を構成することにより、標識付き極値的リーマン面の軌道間の距離を高い精度で得られるようにする。写像類の表現は複雑なため、近似計算をすることになる。このためにコンピュータを大いに活用していく計画である。また、最大単射半径関数と位相的モース関数との関連性を調べるために、関連分野の文献にあたり知識を増やして研究を遂行する。本年度はリーマン面の研究が中心であったが、クライン面のモジュライ空間に対しても最大単射半径関数を考察する。これまでの研究により、この最大値を与える極値的クライン面は、リーマン面と同様に種数が小さい場合には得られているため、このデータを有効に活用してモジュライ空間及びタイヒミュラー空間上での局所的な性質を調べていく。研究を進めるにあたり、連携研究者との打合せやセミナー及び研究集会での議論は重要なため、本年度同様に継続して行っていく。また、海外の研究者とも積極的に交流を行い、必要な知識を教授してもらう。
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