研究課題/領域番号 |
18K03354
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
鈴木 香奈子 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 准教授 (10451519)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | パターン形成 / 反応拡散系 |
研究実績の概要 |
今年度は研究実施計画のうち、拡散-非拡散系のダイナミクスと領域の形状の関連について考察した。これまでの研究で、拡散-非拡散系の滑らかな定常解はすべて不安定であることが分かっており、数値実験で空間非一様なパターンは得られない。そこで、ダイナミクスと領域の関係を調べる第一歩として、本研究を始める動機となった肺がん初期に見られる肺胞上皮における巨視的パターンを記述する数理モデルについて、パッチモデルによる考察を行った。 パッチモデルとは、空間的に離散的であるが時間的に連続なモデルのことであり、肺の構造をパッチに見立てたモデル方程式の構築を行った。数理モデルは、細胞膜の受容器に腫瘍因子が結合することで細胞増殖が促進される過程を記述しており、パッチ内で細胞増殖と受容器に結合した腫瘍因子(結合因子)数の変化が起こり、腫瘍因子はパッチ内を行き来すると仮定する。さらに、腫瘍因子がパッチ間を動く率が細胞増殖率によって変化する場合も導入する。これについて、まずは二つのパッチから成る系、つまり6連立常微分方程式系を考察し、その初期値問題の解について、解の非負性と一様有界性を得た。元の拡散-非拡散系の初期値問題の解は、対応する常微分方程式系の解が一様有界であっても、拡散が入ると非有界になり得ることが分かっている。ゆえに、パッチモデルでは腫瘍因子の空間的な移動と解の有界性を両立できたことになる。 定常解の安定性については、パラメータとの関係を明らかにするため、まずは結合因子が定常状態にあるという仮定をした4本の系から順次仮定を緩めていき、比較しながら考察を行った。今年度は、パッチが一つの場合に安定な定常解が、パッチが二つに増えると不安定化が起こり得ること、別の安定な定常解が出現することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、系のダイナミクスと領域の形状の関連について、肺の構造を考慮したパッチモデルの構築をすることができた。これにより、研究の方針と解析手法が定まったため、計画的に研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
系のダイナミクスと領域の形状については、パッチモデルによる系の解のダイナミクスの解明を行う。ここでは、数値解析を用いて解の挙動を予測することにも時間を割く予定である。また、肺胞上皮の構造を考慮した、薄い領域でのモデル構築と解析を行う。 弱解の構成とその安定性については、安定性を示すためのより詳細な解の評価が必要であるが、直接的に示すことが難しいことが分かった。そこで、適当な変数変換を用いた相平面解析による手法での解の存在と安定性の考察を試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外で開催された国際研究集会への旅費が予定より安く済んだこと、家庭の事情により国内出張の回数が予定より少なくなったことにより、次年度使用額が生じた。次年度は、研究補助のための研究協力者の雇用、研究成果を発表するための旅費として、使用する予定である。
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