研究課題/領域番号 |
18K03355
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
WILLOX Ralph 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (20361610)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 離散可積分系 / 双有理写像 / 力学系次数 / 離散化 / 特異点閉じ込め |
研究実績の概要 |
数理物理学または代数幾何学などの研究分野で大いに考察されている高階の可逆な有理的常差分方程式に関する研究においては、方程式の一般解の複雑性または方程式の可積分性を計る「力学系次数」が、近年、最も重要な数学的な道具となっている。この力学系次数の具体的な計算方法を開発すること、及び力学系次数による高階常差分方程式の分類や特徴付けを行うことは本研究計画の主な目的である。
令和2年度の間には、主に下記の2つの研究課題について研究を行った。 (1)多次元の格子上で定義されている可積分な発展方程式から高階の可積分な差分方程式を得るための「簡約」と呼ばれる数学的手法は昔から知られている。一方、高階の常差分方程式または格子上で定義されている偏差分方程式の可積分性に大きいな影響をもたらす「特異点」の分類はまだ未完全であり、特に簡約された方程式の特異点構造と簡約前の偏差分方程式の特異点との関係は未だに不明である。その関係を解明するためにまず格子上で定義されている方程式における特異点の完全な分類が必要である。今年度には主に格子上で定義されている偏差分方程式の特異点及びその特異点の相互作用を考察した。
(2)常微分方程式の「構造保存型離散化」という問題に関しては、方程式の解の符号または保存量の存在やPoisson構造などの大域的な性質を保つような新しい離散化手法を開発し、その新しい手法をHenon-Heiles系やLorenz系などのいくつかの具体的な力学系に応用し、その結果で得られた離散系の可積分性を考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テーマ(1)については、格子上で定義されている可積分系の典型的な例である離散KdV方程式の特異点を系統的に分類した結果、離散KdV方程式に今まで知られていなかった特異点の種類が3種も存在することを解明した。また、そのうちの一つの特異点のタイプが他の特異点と相互作用できることを発見し、その特異点同士の相互作用を厳密に解析し、特異点の一般的な相互作用をある種のsymbolic dynamicsで記述することに成功した。この研究成果を発表する論文はすでにJournal of Physics A: Mathematical and Theoretical誌に掲載された。
上述のテーマ(2)については、パリ第7大学のBasil Grammaticosと武蔵野大学の薩摩順吉との共同研究で、常微分方程式の離散化を行う際、方程式の解のpositivityを保つための新しい離散化手法を提唱した。この結果を発表する論文はすでにRegular and Chaotic Dynamics誌に掲載された。また、Lorenz系の一つの可積分なケースに対して、元の方程式の保存量と解の軌道を保つ新しい離散化を構成した。この結果を発表する論文は現在作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度には、昨年度の様々な進展に基づき、まず高階常差分方程式及び偏差分方程式の特異点の分類をさらに深める予定である。 特に、昨年度に離散KdV方程式の特異点について得られた結果を踏まえて、離散sine-Gordon方程式などのほかの既知の可積分な偏差分方程式に同じような特異点が存在するかを調べ、それぞれの方程式の特異点の分類を行う。また、離散KdV方程式の特異点の相互作用を記述するsymbolic dynamicsが箱玉系のような解釈を認めることが最近明らかになった為、その特異点の相互作用と箱玉系が定めるダイナミックスとの関係を解明する予定である。
さらに、初期値が偏差分方程式の可積分性に非常に大きな影響をもたらすという2019年度に発見した現象を更に考察し、そのメカニズムの数学的根拠を明らかにする予定である。また、n point mappingより複雑な性質を持つ写像の場合にも、写像の特異点の構造と力学系次数との関係を調べる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の影響で2020年度に予定されていた国際研究集会がすべて中止になり、当初企画していた共同研究のための海外渡航も全て不可能になった。
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