研究課題/領域番号 |
18K03358
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
中島 主恵 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (10318800)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 反応拡散系 / 遷移層 / 特異摂動問題 / 遺伝子頻度 |
研究実績の概要 |
非線型反応拡散方程式において拡散係数を微小にすると,解が遷移層やスパイクなどの際立ったパターンを形成することがある.方程式が空間的に不均一な場合には,不均一性が定常解の構造に大きな影響を与えることが,申請者を含む国内外の研究によりわかってきた.本研究では空間的に不均一な非線型反応拡散方程式の定常問題を 扱い,不均一性と定常遷移層の位置や形状,安定性との関連を研究する.また不均一性が定常解集合の構造にあたえる影響,とくに定常解の一意性,多重度などを研究する. 本年度は遺伝子頻度のモデル (E) u_t=△u+g(x)u^2 (1-u) をノイマンゼロ境界条件下で考える.g(x) は符号を変える.方程式(E)は 集団遺伝学においてNagylakiが1975年に導入した遺伝子頻度のモデルである.この方程式にたいし,Lou-Nagylaki (2002)は次の予想をした. 予想1.∫_Ω g(x) dx >0 の条件のもと,方程式(E)は一意の非自明(非定数)定常解をもつ.この定常解は漸近安定である 予想2.∫_Ω g(x) dx<0 の条件のもと,方程式(E)は非自明(非定数)定常解を丁度2個もつ.1つは漸近安定な定常解であり,もう1つは不安定な定常解である これら予想は長い間信じられてきた.申請者を含む多くの国内外の研究者たちが、この予想を裏付ける結果を公表している.しかしながら研究を進めるうちに Lou-Nagylaki の予想に対する反例を構成できることに気づいた.反例の構成には特異摂動法を用い、長い間信じられてきた予想が必ずしも正しくないことが証明された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者を含む国内外の研究者による既存の研究から,g(x)のすべての零点の近傍に遷移層をもつような安定定常解が存在することが示されている.また∫_Ω g(x)dx<0 の場合に,このほかにもう1つ非定数定常解が存在し,その定常解は常に0の近くに値をとることも示されている.これらの結果よりLou-Nagylaki の予想2よりこの2つの定常解以外に非定数定常解は存在しないと思われていたが,この予想は成り立たずg(x)の取り方によっては他にも数多くの非定数定常解が存在することがわかってきた.本研究で発見したのは次の6つの新しい解である. 1.g(x)の2つの零点のうち1つの零点の近傍にのみ遷移層をもつ定常解がすくなくとも2つある.その中に安定定常解,不安定定常解が少なくとも1つずつある. 2.0の近傍に留まる非定数定常解は(1つではなく)少なくとも3つ存在する. この結果は Multiple Existence of Indefinite Nonlinear Diffusion Problem in Population Genetics (Kimie Nakashima) にまとめられ,現在印刷中である.
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今後の研究の推進方策 |
本年度はLou-Nagylakiによる予想2の反例は構成し、結果を論文として発表するに至ったた.予想1に関してはここ10年ほど解析を進め、非定数定常解の一意性が成り立つための環境係数g(x)の性質を調べてきた.しかしながら最近予想1の条件を満たすg(x)の中に複数の非定数定常解を許すものが存在することがわかってきた.予想1にも反例を構成できるはずである.対称性を極端に欠いている環境変数g(x)に対して、反例を構成しやすいことも分かっている.実際に反例を構成し、結果を公表する方針である.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型肺炎による自粛のため出張がキャンセルされたため次年度使用額が生じた。次年度はさまざまな会議が通常のものからWEB会議などに移行されることも多いと予想されるので、旅費の代わりに計算機器、計算機周辺機器の充実をはかる.
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