研究課題/領域番号 |
18K03361
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
一ノ瀬 弥 信州大学, 理学部, 特任教授 (80144690)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 位相空間Feynman経路積分 / Pauli方程式 / スピンー軌道相互作用 / Dirac方程式 / 非相対論的近似 / Foldy-Wouthuysen変換 |
研究実績の概要 |
申請者の研究課題の目的は、Feynman経路積分の数学的研究と、その量子電磁力学・量子情報理論への応用である。交付申請書に記載したように、令和2年度の実施計画は、時間連続的な量子測定理論のFeynman経路積分による定式化と、Feynman propagatorの経路積分表示の構成であった。 運動量、角運動量、力学的エネルギー等の運動量を含む物理量の量子測定理論を構築するためには、従来から研究が行われていた配位空間Feynman経路積分では十分ではなく、位相空間Feynman経路積分の理論をまず整備する必要があることが分かって来た。令和2年度の研究において、位相空間Feynman経路積分理論を構築し、運動量・角運動量・力学的エネルギー等の量子測定理論を構築する準備を整えた。研究成果として、令和2年度に以下の(1)~(3)の結果を得、現在3篇の論文を執筆中である。(1)スピンと「粒子の軌道」が相互作用するThomas項を持つPauli方程式を研究対象にした。これに対する位相空間Feynman経路積分の定義を提案し、次にこのFeynman経路積分がPauli方程式の解に収束することを証明した。この研究では、ポテンシャル(V,A)が遠方で高々2次の多項式オーダーで増大する場合に示した。(2)(1)と同様な結果を、ポテンシャル(V,A)が遠方で2次以上の多項式オーダーで増大する場合に示した。(3)(1)と(2)で扱ったスピンと「粒子の軌道」が相互作用するThomas項は、光速度cを無限大にしたときの、Dirac方程式の非相対論的近似から導かれる。Foldy-Wouthuysen変換(1950)によって、形式的に非相対論的近似が導かれる。しかし、長い間数学的に厳密な証明は得られていなかった。本研究では、Dirac方程式の非相対論的近似を、数学的に厳密な議論で導いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
交付申請書では、令和2年度の実施計画は、Feynman propagatorの経路積分表示の構成など量子電磁気学(場の理論)の研究を行うことであった。しかし、量子測定理論の研究が思った程は進まず、研究に遅れが生じている。 研究実績の概要で述べたように、運動量、角運動量、力学的エネルギー等の量子測定理論を構築するためには、従来から研究が行われていた配位空間Feynman経路積分では十分ではなく、位相空間Feynman経路積分の理論をまず整備する必要がある。しかし、予想していた以上に、位相空間Feynman経路積分の解析が難しく、このことから、研究に遅れが生じた。令和2年度の研究において、位相空間Feynman経路積分についての満足の得られる結果を得た。従って、現在は運動量、角運動量、力学的エネルギー等の量子測定理論の研究を実施する準備が整った状況である。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、交付申請書で令和2年度実施予定であった、Feynman propagatorの経路積分表示の構成を行う。Feynman propagatorとは、正エネルギー電子は 未来方向にのみ、負エネルギー電子は過去方向にのみ進む、自由Dirac方程式のGreen関数である。Feynman propagatorは、量子電磁気学においては、最も基本的な物理量である。この propagatorは、Dirac方程式の経路積分だけでは単純に表示できない。既に得られているDirac方程式の経路積分を改良し、Feynman propagator の経路積分表示を与えるのが目標である。 又、位相空間Feynman経路積分の理論の構築が令和2年度においてなされたので、これを用いて、運動量、角運動量、力学的エネルギー等の運動量を含む物理量の量子測定理論の研究も併せて行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスの蔓延のため、国際・国内学会が中止され、又他の研究者との交流も中止せざるを得なくなった。この理由で旅費を使用できなかったため、次年度使用額が生じた。コロナウィルスの蔓延が収まり、国際・国内研究集会が開催されば、研究会に積極的に参加し、研究課題達成のために努力したい。 研究費の使用として、リモート研究集会参加のためのOA機器の整備、8月にジュネーブで開催予定の国際研究集会「数理物理学会」に参加を計画している。
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