研究実績の概要 |
人工的につくられるプラズマは, 核融合, 半導体デバイス用シリコンウェハーの微細加工などに広く利用されている. こうした用途では, 放電を用いてプラズマを発生させ,そのプラズマが金属やシリコンなどに接触する周囲には境界層が現れる. 本研究では, プラズマ境界層の形成,放電発生の基礎過程に関する数学理論の構築を目指す. プラズマの運動や放電を記述する数理モデルとして, それぞれ非線形偏微分方程式が頻繁に用いられる. これらの方程式に対して物理的に妥当な初期値境界値問題を定式化し, それらの解の挙動を解析することにより, プラズマ境界層の時間大域的な形成過程, 放電が発生して持続するための電圧の閾値を解明する. 放電が発生して持続するための電圧の閾値は, 期待通りの成果が得られており, プラズマ境界層(シース)の形成の解析に注力している. シースは定常的な境界層 と観測されるため, 数学的には時間的に安定な定常解であると理解できる. これまでに代表者は半空間上で Euler-Poisson 方程式に定常解が存在するための必要十分条件を導き, さらにプラズマ物理学で提案されている Bohm 条件下で定常解の安定性を証明している. 一方, シースへ至る境界層の発展過程は明らかにされていない. その解明への第一歩として, Han-Kwan 等は Debye 長 が十分小さい場合に, Euler-Poisson 方程式の時間局所解は外部解と内部解の和によって近似できることを示した. 代表者等は, 彼等の成果を拡張し, 時間大域解が外部解と内部解の和によって近似できることを示した. また, Han-Kwan 等の研究成果では, 初期値を外部解と内部解の和で過剰に近似している. この仮定は, 初期時刻において境界層が既に形成されていることを意味する. この仮定を外すべく, 初期時刻付近の境界層形成を数値解析した成果をもとに, その数学解析に取り組んだ.
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