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2019 年度 実施状況報告書

複素力学系の分岐によるパラメータ空間の構造の研究とその可視化

研究課題

研究課題/領域番号 18K03367
研究機関京都大学

研究代表者

稲生 啓行  京都大学, 理学研究科, 准教授 (00362434)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31
キーワード複素力学系 / くりこみ / 4次元可視化 / バーチャル・リアリティ
研究実績の概要

無限回くりこみ可能な3次多項式の新しい例を構成した.この例ではどのくりこみの定義域も2つの異なる臨界点を含んでおり,従って組み合わせ的には重複臨界点を持つ場合と同じになっている.これは組み合わせ的剛性(同じ組み合わせ的性質を持つものは共役になる)の新しい反例である.この1つの反例はHenriksenによって既に与えられているが,彼の例ではくりこみは2次であり,3次多項式の解析的1-パラメータ族に含まれるようなものであるが,この例はそのような部分族の解析で得られるようなものではない.更に,これは3次のくりこみを無限個持つ多項式の集合が連続体を含んでいる,つまり,2次多項式で言えばMandelbrot集合の自己相似なコピーの無限個の共通部分 (この多項式を含む「ファイバー」) が連続体を含むということを意味しており,これは2次よりも3次多項式のパラメータ空間が本質的に複雑であることを示す新しい現象である.
また,3次多項式のパラメータ空間のような複素2次元(実4次元)空間の複雑なフラクタル集合などを理解するために,4次元空間のバーチャル・リアリティによるインタラクティブな可視化についても継続して取り組んでいる.東京大学の廣瀬通孝氏ら,九州大学の石井豊氏らとともに,4次元の対象の複数の射影をバーチャルな3次元空間に映し出し,それら射影たちを3次元的に操作することで4次元の物体を操作し理解するためのシステム (Polyvision) を作成した.4次元の相似変換の中でも回転は6自由度あり特に難しいが,これを直感的に理解する助けとなることが期待される.また仮想空間内において4次元(複素2次元)の空間の1点を指し示し,その点を初期値とする軌道や,指し示したパラメータに対応するジュリア集合などをリアルタイムに表示するプログラムのプロトタイプも作成した.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

計画していたtricorn (反正則2次多項式族) の到達不可能な双曲成分の存在についてはあまり進んでいないものの,到達可能性の証明に用いたテクニックを用いることで,到達不可能性が示せるのではないかと考えている.具体的な候補として,Misiurewicz で正則な (=偶数周期の) くりこみを持つものの摂動を現在考えており,今後それに対して評価をしていく予定である.
また無限回くりこみ可能な3次多項式の新しい例は考えていた通りに構成ができた.更にこの例が稲生-宍倉の近放物型くりこみの意味でも無限回くりこみ可能にできることがわかったため,それによって臨界点が非遊走的かどうかなど,力学系的な性質をより詳しく調べることが可能になった.
4次元の可視化については,東京大学の廣瀬通孝氏ら,九州大学の石井豊氏らとの共同研究によって,4次元の物体を操作する上で最も困難である回転のインタラクティブな新しいインターフェイスが開発できた.それとは別に4次元の1点を指示するインターフェイスのプロトタイプができているので,このような操作法を組み合わせ,洗練していくことで4次元の操作がより感覚的にできるようになるものと期待している.
他にもMukherjee氏との共同研究である多項式族での分岐測度の台とactiveなパラメータの関係もVRで可視化し,その動画も作成した.このような既存の結果を説明するための可視化も,結果を広く理解してもらい,コミュニティにおける知見を広め,新しい技術を広く利用してもらう為にはとても意義のあることと考えている.

今後の研究の推進方策

構成した無限回くりこみ可能な3次多項式の新しい例について,その力学系的性質や,パラメータ空間のこの例を含む「ファイバー」(組み合わせ的に同値なパラメータ集合)の構造についてより深く調べたい. 力学系的性質については,近放物型くりこみの理論を適用することで,2次多項式の場合と類似した性質が多く成り立つことがわかる.近放物型くりこみに含まれないもう1つの臨界点があることによって起きる新しい性質について調べ,また近放物型くりこみ作用素の双曲性を用いることで,この例の近くにおけるパラメータ空間の構造についても調べたい.
反正則2次多項式族の到達不可能な双曲成分の存在は,現在候補として考えている Misiurewicz で正則なくりこみを持つ力学系の摂動によって得られるものの構造を詳しく調べ,他にもっと良い候補がないかも含め検討し,証明につなげたい.「ほとんどの」双曲成分は到達不可能であると予想しているので,具体例だけでなく,より一般的な形での証明を目指す.
4次元のバーチャル・リアリティ (VR) を用いた可視化については,VR空間内での回転や1点を指すインターフェイスをより洗練されたものにしたい.また,九州大学の石井豊氏を中心に行っているプロジェクトでは,現在これらのプログラムを用いて4次元図形の認識に関する心理実験を行うべく計画中である.複素力学系の可視化については,1点に収束しないstretching ray (中根-Roesch) などの他の既知の結果を可視化したり,よく知られている部分族や部分多様体を上手く切り出したり,模式的に表示することなどによって,複素2次元の相空間やパラメータ空間の大域的な構造の理解に繋げたいと考えている.

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウイルスの感染拡大によって出張の予定がキャンセルになったため.
2020年度も影響は続くと思われるが,2021年度に開く予定の国際学会で国内外の研究者を招待するのに使用することを考えている.

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 2件)

  • [国際共同研究] Tata Institute of Fundamental Research(インド)

    • 国名
      インド
    • 外国機関名
      Tata Institute of Fundamental Research
  • [国際共同研究] Pontificia Universidad Catolica de Chile(チリ)

    • 国名
      チリ
    • 外国機関名
      Pontificia Universidad Catolica de Chile
  • [国際共同研究] Universite Paul Sabatier(フランス)

    • 国名
      フランス
    • 外国機関名
      Universite Paul Sabatier
  • [雑誌論文] Polyvision: 4D Space Manipulation through Multiple Projections2019

    • 著者名/発表者名
      Matsumoto Keigo、Ogawa Nami、Inou Hiroyuki、Kaji Shizuo、Ishii Yutaka、Hirose Michitaka
    • 雑誌名

      SA '19: SIGGRAPH Asia 2019 Emerging Technologies

      ページ: 36-37

    • DOI

      https://doi.org/10.1145/3355049.3360518

    • 査読あり
  • [学会発表] Miziurewicz approximation of maps with parabolic fixed point2020

    • 著者名/発表者名
      Hiroyuki Inou
    • 学会等名
      Complex Dynamics in the Southern Hemisphere
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] An example of an infinitely renormalizable cubic polynomial and its combinatorial class2019

    • 著者名/発表者名
      Hiroyuki Inou
    • 学会等名
      Holomorphic dynamics and related fields
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Polyvision: 4D Space Manipulation through Multiple Projections2019

    • 著者名/発表者名
      Matsumoto Keigo、Ogawa Nami、Inou Hiroyuki、Kaji Shizuo、Ishii Yutaka、Hirose Michitaka
    • 学会等名
      SIGGRAPH ASIA 2019
    • 国際学会
  • [学会発表] An infinitely renormalizable cubic polynomial and its combinatorial class2019

    • 著者名/発表者名
      Hiroyuki Inou
    • 学会等名
      Real and Complex Dynamics of Henon's maps
    • 国際学会
  • [学会発表] An infinitely renormalizable cubic polynomial and its combinatorial class2019

    • 著者名/発表者名
      Hiroyuki Inou
    • 学会等名
      複素力学系の分岐と安定性の研究
    • 国際学会

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公開日: 2021-01-27  

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