研究課題/領域番号 |
18K03367
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
稲生 啓行 京都大学, 理学研究科, 准教授 (00362434)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 複素力学系 / くりこみ / ヴァーチャル・リアリティ |
研究実績の概要 |
Wang Yimin氏と共同で,1つの周期的なものを除いて全ての臨界点が無限遠に逃げるような多項式に対してtuningが可能である,つまり周期的な臨界点を含むFatou集合の閉包の近傍上のreturn mapを,対応する次数の連結なJulia集合を持つ任意の多項式の力学系(とハイブリッド共役なもの)におきかえることが可能であることを示した.tuningはくりこみの逆操作であり,よく知られたMandelbrot集合の自己相似性を,この場合へ一般化したものである. また,Julia集合内の臨界点は全て前周期的で,かつ全てのFatou集合内の臨界点のまわりでくりこみ可能となるようなパラメータのなす集合がコンパクトとなるような有理関数の例を初めて構成した.コンパクト性はtuningが可能であることを示すための大事なステップであると考えられている.この場合は,少なくとも臨界点が1つだけの多項式についてはtuning可能であることがわかる. また,複素2次元のパラメータ空間である双二次多項式族に対する分岐測度の台の,数値的に観察されていた「穴」については,インターフェイスを改良し,実際にその「穴」を通る平面を求めた.少しずつ平行移動させながら,そのような平面上での力学系を調べたところ,以下の2点を満たすものが数値的に観察された:(1) 放物型不動点を持つ2つのパラメータ以外では吸引不動点を持つか,Julia集合は連結でないので,分岐測度の台には含まれない,(2)残りの2つのパラメータは,分岐測度の台に含まれない放物的なパラメータ (Mukherjee氏との以前の共同研究) になっているものと思われる.この2点が正しければ,実際に分岐測度の台に穴が開いていることになる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「毛深いカントール集合」の性質を用いた無限回くりこみ可能な3次多項式の研究については,元となるCheraghi-Pedramfarの結果が未完成なために十分な進捗は得られなかったものの,くりこみの逆操作であるtuningの可能性については多項式だけでなく有理関数についても新しい結果が得られており,現在もWang氏との共同研究も含め,多項式や有理関数の色々な場合について研究を進めている. また,VRを用いた複素2次元 (実4次元) のパラメータ空間の研究も,インターフェイスの改良によって数値的に観察された「穴」を具体的に求め,そこでの力学系の振る舞いを調べることができるようになり,実際に穴が開いているであろうという確証を得ることができた.これを数学的に厳密に証明できれば,これまで全くわからなかった複素2次元 (実4次元) 空間内の複雑なフラクタル集合の構造をVRを用いた観察によって発見し,それを数学的に証明するという初めての結果になるはずである. 「毛深いカントール集合」の性質を用いた無限回くりこみ可能な3次多項式の研究については,残念ながらあまり進んでいないが,Cheraghi氏も興味は示しているので,連絡を取りつつ,彼らの研究の進行具合を見ながら進めていきたいと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
まず,tuning可能性については,引き続きWang氏の共同研究を含め,高次多項式や,今回得られた,くりこみ可能なパラメータ集合コンパクトとなる有理関数について調べる.高次多項式で連結なJulia集合を持つもののtuning可能性は,primitiveなものはShen-Wangによって最近解決しており,satelliteなものはintertwining surgeryの手法を用いた構成法を以前稲生が与えている.この2つの手法を組み合わせることで,全ての臨界点がくりこみ可能なものは構成可能なはずであり,eventualにくりこみ可能 (くりこみにcaptureされる臨界点を持つ) 場合にも一般化することを考えている.有理関数については,tuningの逆であるstraighteningの性質を用いた摂動の解析なども用いて,より多くの多項式によってtuning可能であることを示したい.部分族としてtuning可能なSierpinskiのカーペットと同相なJulia集合を持つ有理関数が得られることなども期待している. 双二次多項式族の分岐測度の台の穴については,今回数値的に得られた平面上の力学系を調べれば良いので,理論的なアプローチだけでなく,精度保証計算なども含めて厳密に解析したい. 「毛深いカントール集合」を持つ無限回くりこみ可能な3次多項式については,Cheraghi,Perdamfarらの進行中の研究で,近放物型くりこみの安定多様体上では正則運動することを示しているようなので,それを利用できれば研究が進められるものと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で予定していた研究集会などが,ほぼ全てキャンセルまたはオンライン参加することになり,旅費をほとんど使用しなかった.2022年度は海外も含め,対面での研究集会への参加や,共同研究者等との研究打合せや招聘も検討している. また,VR機器についても,VR対応の高速なラップトップPCや,アイトラッキング可能なヘッドマウントディスプレイ型VR機器等を購入したい.
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