研究実績の概要 |
1. 変数係数波動方程式の低周波領域における評価とその応用: キルヒホッフ型の非線形波動方程式の線形化モデルと考えられる, 時間に依存する係数を持つ波動方程式の解の挙動は, 係数関数の性質の影響を強く受ける. 特に高周波領域においては, 係数の導関数のオーダーなどで特徴づけられる振動が強く影響することがわかっており, その評価は, 高周波領域に制限した対角化による解の近似によってある程度精密な評価が可能である. 一方, 低周波領域では上記の手法は有効ではなく, あまり精密な解析手法は知られていない. 解の評価には, 高周波と低周波の両方での評価が必要であり, 本研究は低周波の評価に有効な係数の性質に対する新しい特徴づけの提案である. 具体的には, クライン・ゴルドン型方程式の研究でこれまでに培った, 低周波領域で有効な相空間上における厳密解の構成方法を応用し, 変数係数波動方程式の解の近似において, 従来は定数係数との絶対値の積分を誤差として評価していたものを, 絶対値を取らない積分の量を誤差として評価する手法である. これによって低周波領域においては, 係数が振動しても打ち消し合いの効果により, 解は高周波領域のようには振動の影響を強く受けないことが示される. 2. 変数係数離散型波動方程式のエネルギー評価: 空間変数のみを離散化した波動方程式は, 時間離散フーリエ変換を用いることによって解を具体的に記述することができ, 通常の波動方程式に準じた解の評価が可能となる. しかし, 係数が時間変数に依存する場合は, 連続モデルである通常の変数係数波動方程式と同様に解の挙動は係数関数の影響を強く受ける. しかし, 離散モデルの解は高周波成分に上限があるため, 従来の連続モデルに対する結果と本質的に異なる場合があり, その違いに関する研究を, 1と関連付けて行った. なお, これらの研究成果の一部は研究発表で公開したが, 論文は現在執筆中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要の問題1について: 変数係数波動方程式の解の評価の改良を, 振動する係数の打ち消し合いの効果 (Aと表す)を引き出し, 特に低周波領域での評価を改善することによって実現するのが本研究の目的とアイディアである. そのためには次のような問題を解決してゆく必要がある. (i) Aを引き出すための適切な方程式の変換. (ii) Aを記述する係数の特性の定式化. (iii) 高周波領域での評価との接続. (iv) 既知の結果との比較. 現時点では (i) と (iii) が解決され, 説得力がある形で (ii) を考慮しながら (iv) が主張できるための係数の具体例を構成する問題に取り組んでいる. 研究実績の概要の問題2について: この研究は従来の研究の延長線上にあるものの, 離散モデルという新しい領域とも関連するため, 以下のようなプロセスで研究を遂行している. (i) 定数係数の離散波動方程式の研究. (ii) 離散時間フーリエ変換の離散波動方程式への応用. (iii) 連続モデルで培った手法の離散モデルへの適用. (iv) 既知の離散モデルの研究結果との比較. (v) 既知の連続モデルの研究結果との比較. 現時点では, (i), (ii), (iii) が完了し, (iv) と (v) の観点から本研究成果が離散・連続両方の変数係数波動方程式の研究者たちにその意義が主張できるような具体例を構成する問題に取り組んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要の問題1について: 今後の研究では, 残された (iv) の問題の解決とともに, 本研究のそもそもの出発点である, キルヒホッフ型非線形波動方程式への応用の可能性について研究を展開させてゆく予定である. 研究実績の概要の問題2について: 変数係数離散波動方程式はほとんど未開拓の分野なので, 現時点で残された問題 (iv), (v) の解決後は, 膨大な研究結果が知られている連続モデルの離散化方程式に関する問題への研究展開を計画している. しかし, 最も重要と考えられる問題は, 問題1で述べたものと同様のキルヒホッフ型非線形波動方程式への応用である. 有限の点の離散モデルに対する結果は既に知られているが, 本質的に有限個の常微分方程式系の問題に過ぎないこれらに対して, 本研究で扱っている無限個の点の離散モデルは, 本研究課題の本丸である連続モデルのキルヒホッフ型方程式の解決のヒントになることが期待できる. 現在研究の仕上げの段階にある問題2の解決後は, 有限個の点の離散モデルの研究手法を参考に, 無限個の点の離散モデルへの拡張について研究を進めてゆく.
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