研究実績の概要 |
伝播速度が時間に依存する波動方程式および半離散波動方程式のエネルギー評価: 時間に依存する係数を持つ波動方程式の解のエネルギーの挙動は, 係数の振動の影響を強く受ける. 特に高周波領域においては, 係数の導関数のオーダーなどで特徴づけられる振動が強く影響することがわかっており, その評価は, 高周波領域に制限した対角化による解の近似によってある程度精密な評価が可能である. 一方, 低周波領域では上記の手法は有効ではなく, あまり精密な解析手法は知られていない. 解の評価には, 高周波と低周波の両方での評価が必要であり, 本研究は低周波の評価に有効な係数の性質に対する新しい特徴づけの提案である. その根底には、係数の振動によって生ずるエネルギーの増減の打ち消し合いの効果を記述したいという目論見がある。2020年度は、2019年度に得られた初期値問題に関する結果を、空間変数を離散化した半離散型波動方程式も含む形で一般化する研究を行った。高周波成分への影響が限定的な半離散モデルにおいては、今回導入した条件がより効果的に働き、エネルギーの打ち消し合いを生み出す係数の挙動がより明確になる。本成果については、連続と半離散モデルを統合する形の論文を現在執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、最も基本的な変数係数半離散波動方程式の解のエネルギー評価に関する結果が得られた。しかし、本研究目標の一つであるキルヒホフ型方程式等の非線形モデルや、消散型波動方程式等についてはほとんど結果が知られていないため、2021年度はこれまでの研究成果をそれらの問題解決へ応用してゆく。特に前者については、初期値境界値問題に対応する有限離散モデルに対する結果は既に知られているが, これは本質的に有限個の常微分方程式系の問題に過ぎない。一方、本研究で扱っている半離散モデルは, 本研究課題の本丸である連続モデルのキルヒホフ型方程式の初期値境界値問題の大域可解性解決のヒントになることが期待できる。
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