研究課題/領域番号 |
18K03386
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
仙葉 隆 福岡大学, 理学部, 教授 (30196985)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 走化性方程式 / 非線形知覚関数 / 有界性 |
研究実績の概要 |
走化性方程式系は、自分自身が分泌する化学物質の濃度や濃度勾配に反応して化学物質の多い方向に移動する性質を持つ生物の密度分布の時間変化を表す方程式系である。知覚関数は、化学物質の濃度や濃度勾配と生物の反応の強さを表す関数である。本研究では、非線形知覚関数を持つ走化性方程式系の解の性質を明らかにすることを目的としている。特に、本年度は走化性だけでなく、生物の拡散にも化学物質の濃度が関係する走化性方程式系(以下、局所的走化性方程式系と呼ぶ。)の解の性質について研究を行った。 拡散が化学物質の濃度と無関係な走化性方程式系(以後、Keller-Segel系と呼ぶ。)の解は空間が3次元以上の場合は有限時刻で爆発する解を持つが、局所的走化性方程式系の解は時間大域的に存在することを示した。さらに、対数関数の定数倍を知覚関数とするKeller-Segel系の解は有限時刻爆発する解をもつことが先行研究によって知られていたが、定数が空間の次元に関係する閾値より小さいとき、すべての解が時間大域的に存在することを時定数を制限することで筆者によって示されていたが、局所的走化性方程式系についての今年度の研究により、対数関数の定数倍を知覚関数とするKeller-Segel系で定数が閾値より小さい場合に対応する局所的走化性方程式系の解が時定数の制限なしに時間大域的に存在し有界であることを示した。 以上の研究成果を得るために、比較定理を用いて解が補助関数を定数倍した関数で上下から評価されることを示し、これによって得られた評価と半群理論を用いて解の有界性を示した。補助関数による解の上からの評価は以前から知られていたが、今回の本研究では下からの評価が得られたことによって先行研究よりも精密な解の評価を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生物の拡散にも化学物質の濃度が関係する走化性方程式系(以下、局所的走化性方程式系と呼ぶ。)の解の性質について研究を行い、対数関数の定数倍を知覚関数とするKeller-Segel系に対応する局所的走化性方程式系の解が時定数の制限なしに時間大域的に存在し有界であることを示した。 走化性方程式系は、自分自身が分泌する化学物質の濃度や濃度勾配に反応して化学物質の多い方向に移動する性質を持つ生物の密度分布の時間変化を表す方程式系である。知覚関数は、化学物質の濃度や濃度勾配と生物の反応の強さを表す関数である。本研究では、非線形知覚関数を持つ走化性方程式系の解の性質を明らかにすることを目的としている。 本研究対象の出発点となった線形知覚関数を持つKeller-Segel系はリアプノフ関数と呼ばれる時刻に関して単調に減少する積分量の存在が知られており、当該関数を解析することにより多くの研究成果が得られている。一方、非線形の知覚関数を持つ走化性方程式系については、リアプノフ関数の存在が未だ知られていないため十分な研究成果が得られていない。 本研究により、リアプノフ関数を用いた解析手法を用いない手法として、定常解と時間発展する解の比率を補助関数とし評価する手法、並びに方程式系の中の一つの方程式の時定数を0とした解を補助関数とし比較定理を用いて当該の解の評価を行い、その補助関数による目的とする解の上下からの評価とを組み合わせることにより目的とする解を評価するという2種類の補助関数による議論の有効性を明らかにした。また、今年度の研究により、解の評価から解の有界性や微分可能性を得るために半群理論を用いることが有効であることも明らかにした。 以上のように、リアプノフ関数の方法に代わるいくつかの手法を明らかにし論文雑誌に投稿している。以上の現状を踏まえ、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究によって、非線形知覚関数を持つ走化性方程式系の解が時間大域的に存在し有界であるための知覚関数の条件についての研究並びにそのための研究方法の考察は満足のいく成果が得られたと考えているので、今後は有限時刻並びに無限時刻爆発解の存在の観点から当該方程式系の解の研究を行うことを計画している。 特に、今年度研究成果が得られた局所的走化性方程式系に関しては、自己相似性を持つように単純化した全空間における系(以後、単純化された局所的走化性方程式系と呼ぶ。)が特別な条件の下で後方自己相似解と呼ばれる無限時刻爆発解をもつことを明らかにした。今後は、この後方自己相似解を用いて、有限領域における境界条件が課された問題である局所的走化性方程式系の無限時刻爆発解を構成することを考えている。しかしながら、局所所的自己相似方程式系は比較定理が成り立たないので方程式系の変形や比較定理の拡張が必要であるため、必ずしも満足のいく成果が得られるとは限らない。これらの方策がうまくいかない場合は、単純化された局所的走化性方程式の後方自己相似解を現在成果が得られている条件を緩めることでできるだけ緩い条件下で構成することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大にともなう移動の自粛要請に従い、当該年度に計画していた県外で開催予定の研究集会の出席や成果発表、さらに関連する研究者との討論を中止せざるを得なくなった。その代替え措置として、当該の出張経費を次年度以降の成果発表、関連する研究者との討論のための出張旅費として使用することとした。 しかし、本年度初めの状況を踏まえると部分的に可能になることが予想されるため、対面での研究発表や関連研究者との討論、並びに成果発表のための旅費・宿泊費に前年度未使用分の経費を使用することを計画している。 また、現在本学教員は自宅及び在籍する大学の居室において研究活動ならびに教育活動を行っており、大学外の研究者とは通信により情報交換や討論を行っている。令和4年度も部分的にこの状況が続くと予想される。大学の研究室に設置されている設備は、出張等による討論や情報交換を想定して整備しているものであるため、この状況下で研究を継続するためには、今年度まで準備した設備に加え新たに研究設備を整備する必要がある。その中で、所属している大学の経費ではそろえることのできない物品費にも本経費を使用する予定にしている。
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