研究実績の概要 |
●本研究課題では,数式処理の中で最も重要かつ基本的な演算である多変数多項式系の変数消去に関し,剰余列法(終結式法)のように高速で,かつグレブナー基底法のように消去結果式が最小となるような算法の開発を目指す。一昨年度は,互いに素な二多項式系を扱い,消去イデアルの最低元計算を革新的に高速化した。昨年度はm 多項式系(m >= 3)を扱い,与系が健康(healthy…本研究で導入した新概念)であるとの制約のもと,剰余列法で計算した終結式に含まれる余計因子(extraneous factor)を驚異的に小さくする算法を提示した。 ●しかしながら,本研究で証明した多・多項式系用の定理2は,たとえ与系を健康系に限定しても,剰余列法とGCD演算だけでは消去イデアルの最低元の倍数しか計算できないことを示している。そこで,"u-余因子"なる概念を導入し,GCD演算では除去できない余計因子の除去を試みた。幸いなことに三多項式の具体例では消去イデアルの最低元が計算できたが,一般的に最低元を計算するには,辞書式順序でのグレブナー基底の主要要素に極めて近い多項式たちを計算して与系に付加し,グレブナー基底算法を起動する必要がある。 ●本年度はその方針で研究を遂行したのだが,グレブナー基底の第二最低限を計算する際に予想外の困難に直面した:u-余因子法が全く無力なのである。何度もu-余因子の計算プログラムを見直し,別の余計因子除去法を模索もしたが,困難は打破できなかった。あるとき,非常に奇異な現象を発見した。第二最低元の計算の最終ステップは二つの多項式AとBの和だが,AとBを別々に計算すれば低次項キャンセルが生じないのに,A+Bで低次項がキャンセルして余計因子が生じるのである。これは終結式計算でよく起きる現象で,A,B各々にu-余因子法を適用したごとくAとBを計算することで,遂に解決できた。
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