研究課題/領域番号 |
18K03389
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
佐々木 建昭 筑波大学, 数理物質系(名誉教授), 名誉教授 (80087436)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多変数多項式系の変数消去 / 剰余列法(終結式法) / グレブナー基底法 / グレブナー基底の最小元 / 終結式の余計因子 / イデアル要素の基底係数 / 終結式法とグレブナー基底法の融合 |
研究実績の概要 |
●本研究の最終目標は,計算機代数(別名・数式処理)の中で現在最も重要かつ基本的な多変数多項式系の変数消去に関して,剰余列法(終結式法)のように高速でグレブナー基底法のように消去結果式が最小となるような算法の開発であった。なお,互いに素な2多項式系に対しては上記目標を完璧に達成する算法を既に発見していた。初年度である2018年度には,m多項式系(m >= 3)に対して,与系が健康(healthy…本研究で導入した概念)である場合には,終結式に含まれる余計因子の大半がGCD(最小公約子)演算で除去できることを証明したが,イデアルの最低元を計算するには,最終的にグレブナー基底法の助けが必要であるとの認識に至った。そこで2019年度からは,変数消去からさらに進んで,剰余列法とグレブナー基底法の融合算法の開発に目標を拡張した。具体的には,剰余列法でグレブナー基底の重要元の小倍数多項式を計算し,それらを与系に付加してBuchberger算法を起動するのである。そして,与系の辞書式順序グレブナー基底の低次のいくつかの要素多項式の計算に成功した。 ●前記方法をかなり大きな系でテストしたところ,グレブナー基底の第二,第三,…の最小元 g に対して,その余計因子除去前の多項式 G が非常に大きいことが判明した。余計因子除去は専らGCD演算で行うので,余計因子の大きさが推定できれば G の高次項(低次項でもよい)だけから g が効率的に計算できる。そこで,2021年度にはこれら一連の多項式演算を,与式中の指定した変数に関して指数幅 width の高次項(あるいは低次項)のみを計算する算法を提案し,国産数式処理システムGALに組み込んだ。具体例では,指数幅が100程度の計算が指数幅20弱で計算できるので,計算量が(20/100)ほど減少すると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
●研究内容の観点から言えば,グレブナー基底法は1965年の発表以来,算法の表面的改良は多々なされたが抜本的改良はないと言ってよく,さらに古い終結式の余計因子除去は多くの先人の努力にも関わらず誰も解決できなかった。そのような状況下,たった5年間で両者ともに解決に大きく前進したという意味では,研究は驚異的に進展したと言ってよかろう。 ●しかし,具体的に計算プログラムを開発して種々の例をテストしてみると,全く予期しなかった課題が次々に現れてきて,目標とする算法に到達するには,有名な部分終結式理論を組み合わせた行列式解析に加えて,健康でない系に対する複雑で混み行った場合分けが必要であることが見えてきた。それらの課題の解決には長期間の研究がさらに必要である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度(2021年度)に開発した High-exponents/Low-exponents(Hex/Lexと略記)多項式演算を具体例に適用してみると,和算においてHex-多項式演算では最高べきのいくつかが,Lex-多項式演算では最低べきのいくつかがキャンセルして0になることが稀に発生した。すなわち,指定した変数に関する width が減少するのである。この現象は浮動小数演算における『桁落ち』に似たものなので,Width-Decreasing(『幅落ち』)と命名したが,そのまま計算を続行するとその後の計算結果に深刻な誤差項を導入することになる。滅多に発生することは無いとはいえ,幅落ちが発生しても以後の計算に誤差項が導入されないような工夫が是非とも必要である。幸いなことに,簡単な工夫を思いついた。Hex-多項式演算で最高べき項 V^h がキャンセルした場合には 0×V^h なる0係数項を,Lex-多項式演算で最低べき項 V^l がキャンセルした場合には 0×V^l なる0係数項を,それぞれ多項式に残すのである。 これは簡単ながら非常に有用なアイデアであると思うので,このアイデアを国産数式処理システムGALに組込むとともに,さらに算法の高速化に努める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度は海外国際会議での発表を2件予定していたが,いずれもオンライン開催となり,実支出が論文出版費のみとなってしまった。 2022年度は,コロナによる海外出張が大幅に緩和されたので,繰り越した科研費を是非とも海外での発表に有効に活用したい。
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