本研究課題は昨年度(令和3年度)までに大部分を終了し,立方晶の対称性をもつ円柱充填と同じ配置をした不変トーラス(積分曲線がらせん状に巻き付くチューブ状曲面)をもち得る力学系について報告した投稿論文の受理を待った.4月に論文掲載が決まり,本科研費の今年度の額すべてをそのオープンアクセス費の一部として使用し,本研究課題を終了した.平成30年度から始まった研究期間の全体を通じて得られた成果を以下に箇条書きする.(1)力学系の積分曲線すべての集合が,与えられた空間群の対称性をもつようにパラメータを決める際,磁気群を利用すると便利であることを示した.磁気群を力学系に応用する研究は従来には無かった新しいもののようである.(2)その方法をキラルな六方晶の対称性のもとで適用し,数値的に得られた不変トーラスの配置が,キラルスメクチック液晶のブルー相におけるダブルツイストシリンダ(棒状分子がらせん状に巻き付く円柱状曲面)の配置として過去に提案されたものと類似していることを指摘した.(3)立方晶の対称性のもと,不変トーラスが円柱充填6種(キラルな充填における鏡像を2種と数えれば9種)それぞれに似た配置をとるためには,どのような磁気群を力学系に適用したら良いかについて明らかにし,その結果を用いて数値的にそれぞれの配置を実演した.(4)研究の副産物として,キラルな立方晶の対称性をもつ力学系のなかに,不変トーラスが互いに絡み合いながら無限に広がる鎖構造を形成するものが存在することに気付いた.不変トーラスが結び目や絡み目をなす実例は,従来いくつか報告されているが,結晶学的対称性のもとでの結果は新しい.
|