研究課題/領域番号 |
18K03417
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研究機関 | 鳴門教育大学 |
研究代表者 |
宮口 智成 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (10367071)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ブラウン運動 / コロイド / 点過程 |
研究実績の概要 |
令和2年度は ① 細胞質の数理モデルに関する理論解析と、② 点過程の時系列データ分析に対する理論研究を進めた。
① 細胞質の粗視化モデルに関する理論解析: 細胞質の粗視化モデル (不均質なブラウン粒子系) における拡散性低減の理論解析と数値解析を進めた。既に完成している「体積分率に関する線形理論」(Physical Review Research 誌に掲載済) を、非線形領域まで拡張することを目標として研究を進めた。具体的には、非線形領域におけるヒューリスティックな拡散性低減理論を構成した。しかし、ミクロなダイナミクスに基づく非線形理論を構築することには成功していない。現在、流体相互作用を考慮したモード結合理論やコロイド粒子系に対する一般化ランジュバン方程式などの先行研究を基礎にした理論解析を進めている。
② 点過程の時系列データ分析に対する理論研究: 極めて重要な確率過程のクラスである点過程の時系列データ分析について、理論解析および数値解析を進めた。具体的には detrended fluctuation analysis (DFA) と呼ばれる非マルコフ的時系列データに対する良く知られた分析手法を、点過程に適応した場合の結果を理論的に明かにした。これまで、非整数ブラウン運動などに対する DFA の理論は存在したが、点過程に対する理論は知られていなかった。これら2種類の確率過程には本質的な違いがあることが近年分かってきており、非マルコフ的点過程に対する今回の解析結果は非常に重要なものであると考えている。また、これらの理論の結果は数値シミュレーションとよく整合することを確認した (以上の結果をまとめた論文は現在投稿中である)。DFA は細胞内拡散の一分子計測実験で良く用いられている時間平均 2 乗変位と類似した統計量であり、今後の応用も期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
① 細胞質の粗視化モデルに関する理論解析: 令和 2 年度は、細胞質の粗視化モデルの理論解析については、拡散性低減のヒューリスティックな非線形性理論を考案した。ミクロなダイナミクスに基づく理論の構築については進めることができなかったが、今年度は先行研究の調査に多くの時間を費やしたので、ここで得た情報は来年度以降に活かすことができると考えている。
② 点過程の時系列データ分析に対する理論研究: 一方、 点過程の時系列データ分析については大きく進展し、結果をまとめた論文を現在投稿中である。特に、今回理論的な解析を行った detrended fluctuation analysis は、細胞内拡散の一分子計測実験で良く用いられている時間平均 2 乗変位と類似した統計量だが、トレンドを除去することで短時間の時系列データであっても、比較的精度の良い結果が得られることが知られている。そのため、今回の結果は、シミュレーションにおける利用だけでなく、実験における応用可能性も含めて、有用な成果であると考えている。
これらのことから、全般的な進捗状況としてはおおむね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和 3 年度は ① 既に予備的な結果を得ている「拡散性が揺らぐ結合 2 粒子系」の結果を論文にまとめる作業を行い、さらに高分子系など多粒子系への拡張を行う。また、② 細胞質の粗視化モデルの拡散性の低減理論 (非線形理論) の構築と、シミュレーションを進め、③ 非マルコフ点過程に対する Detrended fluctuation analysis の理論の拡張を試みる。
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