令和3年度は次の2点について研究を進めた: ① 拡散性が揺らぐ一般化ランジュバン方程式 (GLEFD) の構築、② 記憶カーネルが指数関数の場合の GLEFD の解析。
① 拡散性が揺らぐ一般化ランジュバン方程式の構築: 近年、細胞質内の一分子計測実験において、異常拡散と非ガウス性がともに観測されるという報告がある。そこで、非整数ブラウン運動に拡散性揺らぎを導入する研究が広く行われつつある。しかし、これらの先行研究では、揺動散逸定理や詳細釣り合いが成立するかどうかの議論が不十分であり、これらの性質を満たすモデルを構築することが物理的には重要であると考えた。そこで、マルコフ埋め込みの方法を用いて、一般化ランジュバン方程式を一旦マルコフ化し、このマルコフ化したランジュバン方程式系に拡散性揺らぎを導入した。このランジュバン方程式を「拡散性が揺らぐ一般化ランジュバン方程式 (GLEFD)」と呼ぶ。また、一般化された揺動散逸定理を満たすことも示した。
② 記憶カーネルが指数関数の場合の GLEFD の解析: GLEFD の記憶カーネルが単一の指数関数型であり、かつ拡散性揺らぎが2状態確率過程で与えられる場合を詳細に解析した。これは、GLEFD の中でも最も簡単なモデルであり、詳しい理論解析が可能な (現状では) 唯一のモデルである。解析の結果、(1) 記憶効果と拡散性揺らぎが複雑な仕方で絡み合っており、従来提案されていた数理モデルは単純過ぎること、(2) 平均 2 乗変位にプラトーが生じること、(3) 粒子変位の非ガウスパラメータが (時間の関数として) 単峰性を持つこと、(4) 非平衡初期アンサンブル (ただし、2状態の滞在時間分布がべき分布であると仮定した) の場合には、異常拡散や伸展指数緩和などが見られることが分かった。これらの結果は現在投稿準備中である。
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